へるぱ!

介護を受けるプロ

第21回 さんま事件       2015/10/27

現在、私のところに12人のヘルパーさんが来てくださって生活している。ケアのやり方はいくら言葉で言っても、一人ひとり少しずつ違う。歯みがきのうまいヘルパーさんが一番うれしい。歯みがきのうまい人は他のケアをやってもうまいからである。

どうしたらケアを受けやすくなるか、と常に考えてきたが、ヘルパー学校では高齢者のケアが中心で、障がい者のケアはあまり教えないと聞き、そういう実態から間違いが起きているのかもしれないと思った。

ケアを行う側は「ケアをやってあげる」と考えている人が多いように思う。自分がケアを受ける立場になったらどうなのだろう、と置き換えて考える人が少ないように思う。ヘルパーさん同士で歯みがきをし合ってみるのも大事だと思う。どのヘルパーさんが一番うまいかを考えると、ケアを受ける大変さがよく分かるかもしれない。

ある朝、ヘルパーさんに「さんまの頭を切って、はらわたを取って、塩を振って、焼いてください」と具体的に頼んだ。でもそのヘルパーさんは「はらわたをつけたまま焼いたほうが、絶対においしいですよ」と4回も言い続けた。ケアを受けるときはヘルパーさんの意見も大切。一、二度聞いて、そのやり方のほうが良いと思ったらすぐ取り入れるようにしている。でも、魚のはらわたをつけたまま焼くということは経験がなかった。だんだん険悪な空気になり、諦めて「そのまま焼いてもいいです」と怒鳴るように言ってしまった。その夜さんまを電子レンジで温め、ひと口食べたが、はらわたの苦みが身まで染みついており、結局そのさんまを捨ててしまった。「さんまを買ってきてください!」と言いたかった。

ケアをするルールは、その人が言った通りに行うこと。失敗しても頼んだ人の責任なのだ。そのヘルパーさんは今まで何度もそういうことを繰り返していたので、ちょっと疲れていた。心の奥底で「ここはあなたの家ではないの。私の家なの。だから言うとおりにやって」と言いたかった。でもこれを言ってしまうとすべてが終わりになる。

ヘルパーさんによって、自分の家のやり方を押しつける人がいる。互いに教え合うことも大切だと思う。ヘルパーさんとケアを受ける人の間には深い川ができるときがある。その川を渡ろうとしても渡りきれないときがある。人間、神にはなれないのである。

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コラムニスト紹介

小山内 美智子

障害者自立生活センター 札幌いちご会 理事長
前社会福祉法人アンビシャス施設長

プロフィール

1953年生まれ。
障害者自立生活センター 札幌いちご会 理事長。前社会福祉法人アンビシャス施設長。
自身、脳性麻痺で「ケアを受けるプロ」を自認。

2008年 悪性リンパ腫を発病したが、半年の闘病生活を経て、社会復帰を果たす。
北海道大学医学部作業療法学科で教鞭をとるなど、介護教育に力を入れている。

また、著書『わたし、生きるからね』(岩波書店)などほか多数あり。

著書・出版

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