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見つめよう!人と介護

第4回 あとにつづく人たちへ

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 本棚の隅に置き忘れていた一冊の本。広げてみると、女山頭火と自身をそう呼び、日々を呟きながら歩いているひとりの詩人がいました。

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専門学校で講義を始めた頃、学生の講義を受ける姿勢にはそれぞれ様々な形があるんだな、と感じていました。1年生のクラスでは、最初から最後まで机にうつ伏せになって寝ている人、周りの人と愉快可笑しくつつき合いお喋りをしている人、そうかと思えば、真剣に板書を書き写し頷きながら聞いている人。どれをとっても中途半端ではありません。4年生になると、国家試験の受験を意識しているのか、居眠りも遠慮がちであるか、あるいは諦めびとになっているかです。
1年生から4年生の何年かの過程のなかに、実習という体験学習で、教室から現場へと学びの場が移る時期があります。そういえば私も少し前にいた施設の実習指導の場で、数人の学生を受け入れたのですが、実習の始まる前と最後の振り返りで、学生たちの内面が明らかに成長していたことに驚いたことがあります。

座学として学ぶ理論はおそらくほとんど上澄みのようなもので、むしろ実習の現場で出会う経験こそ彼らがこれから歩む道のエキスとなってくれるでしょう。例えば、実習指導者や介護・福祉の先輩たちの態度や言葉であったり、体温を感じられる対象者との触れ合いなどこれらすべてです。

私は1年生の人たちが、聴いてくれない講義をしていることに倦怠感を感じ、自信を無くして、講師には向いていないのかも…と悩んだことがありました。しかし、学生たちに必要なことは、教科書から学べないものを伝えることかもしれないと思うようになりました。そのために必要なのは、生き方をもった講師の存在なのだろうと最近感じています。それは、彼らがこれから認知症をもつ方や障害者、あるいは児童の傍らに寄り添い、援助をしていくことを業としていくなかで、大切なことを教えるのではなく、何かを感じられる場を提供していくこと。理論や法律は言葉で語るけど、そこから学べることは15%程度の感触だけでよいのではないかと思うと、とても楽になりました。

山頭火は、一草庵で、「所詮は自分を知ることである。私は私の愚を守ろう」と日記に記しました。また「前書きなしの句というものはないといえる。前書きとは、作者の生活である。」と言い、自分の生き方があり、作品ができることを言っています。

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看護師という職業を経た山口敦子という詩人が、種田山頭火に惹かれ、自身の生き方を重ねていく作品群。それは、そのまま私に福祉を志し、後へ続く人たちへの言葉を静かに与えてくれます。

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詩集 旅路 「山頭火の世界へ」山口敦子
土曜美術社出版より

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コラムニスト紹介

向井 洋江

詩人・ケアマネージャー・社会福祉士

プロフィール

1981年豊中市の行政においての在宅福祉のかかわりを機に、シルバー新報に詩とエッセイの連載が12年続く。その後、社会福祉協議会にて、訪問介護や在宅介護支援センターでのコーディネーター・ソーシャルワーカーに携わりながら、詩と随筆集を5冊出版。

幼い日の、母の養老院において働く後ろ姿から感じたものが、現在の福祉現場での仕事と作品につながっている。訪問介護においても、一人ひとりの高齢者がたどってきた生きざまに寄り添う大切な仕事であることを、作品の中で書きつづける。

渋谷区基幹型在宅介護支援センター長、尼崎市園田北地域包括支援センター管理者、ジェイエイ兵庫六甲福祉会在宅事業部長を経て、現在はソーシャルサポート灯(あかり)合同会社代表。NPO法人伊丹アドボカシーネットワーク理事、湊川短期大学・大阪保健福祉専門学校の講師も務める。尼崎市介護保険認定審査会委員、伊丹市障害支援区分認定審査会委員、兵庫県社会福祉士会権利擁護センターぱあとなあ運営委員。

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