へるぱ!

介護から学んだこと

第8回 思いや意思の確認!しているつもり

 大野芳江さん(仮名・84歳)は、定年まで仕事をしていました。数年前からリウマチが進行し、関節が曲がらなくなったため、訪問介護サービスを週3回利用しています。一人暮らしが長く、生活の仕方も独自の考えがあり、きちんとしていらっしゃって、生活のリズムも崩さない方です。少々身体のこわばりがあっても一定時間に起き、食事、就寝、と決めて規則正しく暮らしています。

 介護は、身体の動きによって介助方法を変えつつケアを行います。体調が悪い場合は一つひとつ状態を聞きながら、丁寧に。

 この日はたまたま、大野さんが体調の良い日でした。起床介助で、挨拶をして、ベッドに寝ている大野さんに「起こしますよ」「布団をはぎますよ」「手の位置は大丈夫ですか?」「手に力は入りますか?」などと声かけをしながら、その時はつい同時に動いてをしまいました。例えば、「ふとんをはぎますよ」と言いながら、掛けているふとんをはがす…といったように。ところがその後、起床介助、着替えなどはスムーズにできたのに、なぜか大野さんが不機嫌な感じにみえました。

 また、朝食の味噌汁をつくる際、いつもだしは煮干しと昆布なので、「だしはいつも通りでいいですか?」と聞きながら煮干しと昆布を鍋に入れていたら、「今日は湿度が高いから、煮干しは頭とはらわたを取ってください」と。「えーっ!」もう入れてしまったのに…と、鍋から煮干しを取り出し、水を含んだ頭とはらわたを取っていると、「いったん水に入れた煮干しの頭とはらわたを出しても生臭みはとれないわよ」と、クールな声が返ってきました。

 その瞬間、何が起きたのか、行った援助が頭をぐるぐる回転。起床介助は痛みもなくスムーズにできて、調理も、味噌汁のだし以外はうまくできたのに…。でも、表面的にうまくできたように見えていても、大野さんの思いや意思はしっかり確認できていなかったのかもしれません。 本来であれば、私は大野さんに声かけし、その答えを確認してから介護行為に入るべきなのです。ところが今回は、私が声かけしながら同時に介護行為をスタートさせてしまいました。それは、形式的な確認行為をしているにすぎず、本来の意味からも程遠くなってしまっていました。その人らしい生活に沿った援助は言い難いということを、その時強く実感し、反省させられもしたのです。

 流れや形だけの援助、その人の思いや意思を反映させない援助が、利用者の生活にどのような影響を与えてしまうのか。利用者はノーということが言いにくい立場であることを肝に銘じたいと思います。

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コラムニスト紹介

是枝 祥子

大妻女子大学 名誉教授

プロフィール

昭和39年東洋大学社会学部応用社会学科卒業後、児童相談所、更生相談所、特別養護老人ホーム、在宅介護支援センター、ヘルパーステーション等、数々の現場勤務を経験。

1998年より大妻女子大学人間関係学部人間福祉学科教授で同学部の学部長も務め、現在は同大学名誉教授。

介護職員の研修をはじめ、多くの介護人材育成に携わる。

著書・出版

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