へるぱ!

介護から学んだこと

第41回 サービスを利用する気持ち      2023/09/14

 成瀬真知子さん(80歳、仮名、介護保険利用なし)は、夫の和夫さん(81歳、仮名、要介護2)と二人暮らしです。和夫さんには認知症がありデイサービスを週2回、訪問介護を週3回利用しています。和夫さんは物忘れが顕著なので、真知子さんが丁寧に声をかけてお世話をしていて、日ごろからの疲労が蓄積しています。几帳面な性格で書類なども丁寧に読み、わかりにくいときは調べたり聞いたりします。

 訪問介護サービスでは調理と食事の見守り、トイレ介助を利用しています。和夫さんの分を多めに作っておいて、残ったものを真知子さんに少し、とも思うのですが、介護保険はその人一人のサービスで、認定を受けていないのでそうもいきません。真知子さんは買い物や掃除・洗濯、和夫さんの介護で精一杯、自分の食事は菓子パンやご飯に納豆で済ませています。体力も限界で共倒れにならないかとハラハラしています。ケアマネジャーに状況を伝え、真知子さんの状態や今後の生活について話し合いを持ち、要介護認定の申請を勧めました。ところが真知子さんは和夫さんの世話をすることが役割だと思っていて、自分までもが介護保険を使うなんて、と断りました。「税金の無駄づかいはできません。夫の食事やデイサービスに行けるだけで十分です。自分のことは自分でなんとかするわ」と話を聞こうとしません。子どもは娘二人ですが遠方に住んでいて、宅配便で時々食べ物が届きます。娘さんにも迷惑はかけたくないと強く思っていて、宅配便もいらないのにと常日ごろから言っています。

 訪問介護員が和夫さんの調理をする際、味つけなど真知子さんに聞きながら行うので、一緒に台所に立ってもらい、真知子さんにも自分自身の食事の調理をするように促しますが、「あとでいいわ」と言います。ところが最近は「少しやってみようかしら」と炒め物や煮物を作る機会が増えてきました。和夫さんはいつもベッドで横になっていますが、真知子さんが調理をしている姿を見て「お母さん元気が出たの?よかったね」と何度も言います。

 公的サービスを利用するための公文書は、堅苦しい文章で読んでもわかりにくいことが多々あるように思います。特に訪問介護サービスに関する説明は、サービスを利用すると、自分の生活がどのようになるのかを具体的にイメージできるようになれば、真知子さんのようなケースでも、申請・認定につながり、安心して在宅生活を継続していけるようになります。もっと文書の内容がシンプルでわかりやすいものであってほしいですね。

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コラムニスト紹介

是枝 祥子

大妻女子大学 名誉教授

プロフィール

昭和39年東洋大学社会学部応用社会学科卒業後、児童相談所、更生相談所、特別養護老人ホーム、在宅介護支援センター、ヘルパーステーション等、数々の現場勤務を経験。

1998年より大妻女子大学人間関係学部人間福祉学科教授で同学部の学部長も務め、現在は同大学名誉教授。

介護職員の研修をはじめ、多くの介護人材育成に携わる。

著書・出版

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