へるぱ!

介護から学んだこと

第40回 伝えることは難しい      2022/11/07

 小山昭雄さん(80歳、仮名、男性、要支援2)はひとり暮らしです。妻は特養に入居しています。小山さんは高血圧で糖尿病があり、食事に気をつけてはいますが、濃い味つけやアルコールが大好きです。訪問介護は週3回。一緒に食事の支度と掃除をします。他のサービスは利用していません。とても几帳面で、月・金曜日は妻の面会に、月1回近所のクリニックを受診、日曜日は散歩と買い物、水曜日は将棋クラブに行くなど、よい生活リズムで過ごしていました。話題も豊富で、昔の話や社会情勢等、わかりやすく話します。月に数回、隣市に住む長女が買い物や話し相手をしてくれます。

 ところが新型コロナウイルス感染症拡大防止のため妻との面会ができなくなり、今までの生活リズムが崩れました。初めのころは「しかたないね」と言いながら自分なりのペースで過ごしていましたが、何日も同じ服を着続け、洗濯も滞るようになっています。今までは新聞の切り抜きや番組表に赤鉛筆で印を付けて楽しんでいましたが、購読している新聞もそのままです。妻との面会の日は、「どれを着ていこうか」「おやつは何を持っていこうか、どら焼きにしようかな、次はくずもち」「何を話そうか」などと楽しく準備をしていました。妻に会いにいくことは大きな意味があり、生活の中心でもありました。面会ができなくなってからは覇気がなく、一緒に調理をしていても、次の動作の声かけを行わないと動かず、手の動きも遅くなったように感じます。自ら話しかけてくることも少なくなり、笑顔があまり見られなくなりました。生活全体に明るさがなく、家はシーンとしています。

 このままだと心身状態が低下していく心配があり、長女やケアマネジャーに状況を伝えたり、何度も記録に残しているのですが、状況が適切に伝わりません。直接本人に会うと話もきちんとできるし、着衣も乱れていないのでその場の状況だけでは変化が伝わりにくいのです。しかし、以前と比べると全体的に低下気味。訪問介護としてかかわっていると、その時々の動作や表情、雰囲気など、違っているのがよくわかるのですが、それを言葉で伝えることは難しいのです。継続的なかかわりをしているからこそ感じること、これをどのように伝えて理解してもらうかが課題です。会話をしていてもすぐに終わってしまう、中身も浅くなってきて、表情の変化がなくなり、会話が途切れてしまうこともしばしばです。状態や状況を伝えることの難しさ…でも伝えなければと自問自答しています。

一覧へ戻る

コラムニスト紹介

是枝 祥子

大妻女子大学 名誉教授

プロフィール

昭和39年東洋大学社会学部応用社会学科卒業後、児童相談所、更生相談所、特別養護老人ホーム、在宅介護支援センター、ヘルパーステーション等、数々の現場勤務を経験。

1998年より大妻女子大学人間関係学部人間福祉学科教授で同学部の学部長も務め、現在は同大学名誉教授。

介護職員の研修をはじめ、多くの介護人材育成に携わる。

著書・出版

トップページへ