へるぱ!

介護から学んだこと

第39回 何回迎えることができるかしら      2022/09/28

 森野和子さん(80歳、仮名、女性)は要介護1で、15年前に夫、5年前に長女が他界し現在はひとり暮らしです。多発筋痛症で時々足や腰が急に痛んで動けなくなります。定期的な受診と通所リハビリを週2回、訪問介護を週2回利用しています。訪問介護は、1回は同行で買い物、1回は掃除と調理を一緒に行いますが、体調によって提供できないこともあります。森野さんは穏やかな性格ですが芯はしっかりしていて、自力でやろうと頑張り過ぎるところがあります。友人も近隣におり時々訪問してくれますが、最近はコロナで回数が少なくなっています。新聞や本もよく読み話題は豊富です。

 その日は体調もよいので、近隣のスーパーへ買い物に行きました。いつもは必要なものを決め、短時間で済むようにしていますが、最近リハビリを休むことが多くなり身体を動かすことが少ないので、運動を兼ねていろいろなコーナーを回りました。季節柄お盆のコーナーにも立ち寄ります。その他のコーナーも回り、たくさん買い物をしました。帰りの道々でも歩道の草花を眺め、「暑い暑いと言っているけど黄花コスモスが咲いて自然は変化しているのね」と。足取りはしっかりしていて、いつもよりたくさん歩いたものの、疲れはない様子でした。

 帰宅すると「茄子ときゅうりは出しておいて」と言いながら割り箸を出して、「このくらいの長さに切って」と言います。言われた長さに切って渡すと、茄子ときゅうりに割り箸を刺し、買ってきた供物と一緒に「これに乗って帰ってくるのよ」と仏壇に供えました。今日は痛みもなく元気だなと思いながら、他の物を片づけていると、「お墓へお迎えは無理だけど、せめて家ではお盆らしく迎えてあげたいわ。気持ちだけでもね。でもこれから何回できるかしら、私でこの家も終わりなので墓じまいも考えないとね。つい後回しにしてるけど、お盆が終わったらお寺さんに相談しようと思っているの」。

 気分を害するかなと思いながら「そうですか、足腰が弱らないようにリハビリをしてお墓参りができるといいですね」と言うと、「そうなのよね。コロナでついついリハビリを休んでいるけど、どんどん足腰が重くなって動きにくくなっているのを実感していたところなの。リハビリへ行くと言い出しにくくなっていたのよ。やっぱり行ったほうがいいわよね。明日ケアマネさんに連絡しようかな」。

 自分なりにいろいろと考えての行動だったようですが、状況を考慮しつつ後押しも必要だなと思いながら森野さん宅を退出しました。

一覧へ戻る

コラムニスト紹介

是枝 祥子

大妻女子大学 名誉教授

プロフィール

昭和39年東洋大学社会学部応用社会学科卒業後、児童相談所、更生相談所、特別養護老人ホーム、在宅介護支援センター、ヘルパーステーション等、数々の現場勤務を経験。

1998年より大妻女子大学人間関係学部人間福祉学科教授で同学部の学部長も務め、現在は同大学名誉教授。

介護職員の研修をはじめ、多くの介護人材育成に携わる。

著書・出版

トップページへ