へるぱ!

介護から学んだこと

第34回 困っている孫を助けたい!!      2022/03/14

 金井君子さん(76歳、仮名、女性、要介護1)は集合住宅の1階でひとり暮らしです。近所に次男が住んでいて、その妻が週2~3回訪問しています。最近物忘れが目立ってきたので、デイサービスを週1回、町内のミニデイに週2回、訪問介護は週2回利用しています。入浴はデイサービス利用時と次男の妻が訪問したときに行っています。次男の妻からは「何とか髪も洗っているので、できるだけ自分でできるうちはこのままにしたい」と言われています。調理はレンジで温める程度、火は使いません。本人も「火事になったら大変だから」と、訪問介護サービスのときにヘルパーと一緒に調理しています。

 あるとき訪問すると、金井さんは出かける準備をしていました。「どこかにお出かけですか?」「えーちょっと近くの信用金庫まで」「急にお金が必要なの」「孫の友達から連絡があって、孫が友人と争いになってお金が必要で、これから取りに来るというの」「ちょっと待ってください、お孫さんに電話で聞いてみたら」「だって急いでいるのよ、困っている孫を助けたいのよ」と聞く耳を持ちません。バッグを持って外に出、急ぎ足で行ってしまいました。事業所に連絡を、と思いながら、先に信用金庫に電話をして、後を追いかけました。

 信用金庫の人も要件を丁寧に聞いて「お孫さんに確認してからではどうでしょうか」「急いでいるので早く連絡してくださいな。自分のお金なのに、何で聞くのかしら変な人たち」とブツブツ言っています。信用金庫の人が孫の携帯に電話を入れました。事の次第を説明し電話を代わると「おばあちゃん、それは違うよ、争いなんかしてないしお金は必要じゃないよ」「えーだってあんたの友達からかかってきたんだよ」「名前はだれ」「名前ねえ、だれかしら」「おばあちゃん、今はやりのオレオレ詐欺だよ」やっとだまされていたことに気づいたようですが、「ほんとにそうかしら、私に心配かけたくないからそう言っているのではないかな」と何となく納得のいかない様子です。

 いつもはカードの暗証番号も忘れて、息子さんたちに何度も聞くのに、その日は覚えていました。可愛いお孫さんの窮地を助けたい気持ちが強かったのでしょう。最近では手を貸したり声をかけることが多くなっていましたが、帰宅後は、金井さんが献立を立て調理をしました。手の動きもよく、出来栄えもいつもよりよいように感じました。できるところはまだまだたくさんあるので、観察力が必要です。

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コラムニスト紹介

是枝 祥子

大妻女子大学 名誉教授

プロフィール

昭和39年東洋大学社会学部応用社会学科卒業後、児童相談所、更生相談所、特別養護老人ホーム、在宅介護支援センター、ヘルパーステーション等、数々の現場勤務を経験。

1998年より大妻女子大学人間関係学部人間福祉学科教授で同学部の学部長も務め、現在は同大学名誉教授。

介護職員の研修をはじめ、多くの介護人材育成に携わる。

著書・出版

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