へるぱ!

介護から学んだこと

第33回 その日によって、時間配分は違うのよ      2021/12/14

 青葉静子さん(86歳、仮名、女性、要介護1)はひとり暮らし。近所に次女夫婦が住んでいて、週に2~3回、掃除・洗濯・重い物などの買物をしてくれます。デイサービスを週2回、訪問介護サービスは週2回買物、調理の内容で利用しています。

 最近デイサービスを休むことが多いのですが、理由を聞いても「行きたくないの」と言うだけです。加齢による身体機能や認知機能の低下はあるものの、気になるような病気はありません。今日も呼び鈴を押し訪問すると、ベッドで寝ていました。「お天気が良いので買物に行きませんか」と話しかけると、いつもより小さな声で「行きたくないわ」と。どこか具合が悪いのかなと思い様子を伺いながら、ベッド横のくず入れを見ると菓子パンやお菓子の袋が捨ててあり、シーツの上にはクッキーがこぼれていました。食欲はある様子。

 パジャマのままなので、温かいおしぼりを手渡し、化粧水・クリーム・櫛を持っていくとベッドに起き上がり、手慣れた様子で手を動かします。以前娘さんが持参した薄いピンクのマニキュアを見せると、うなずき指を広げたので、声をかけながら1本ずつ塗っていくと、「若くなった感じね、ふ…」と、やっといつもの表情になりました。爪が乾く間に着替えを用意すると、「カーディガンも出して」と言います。自分で着替えをし、「では、スーパーに行こうか」と。今からでは、時間が足りないのでは、と思いながら静子さんの気持ちを優先することにしました。

 足元のふらつきもなくスムーズな歩調で、青空を見上げたり銀杏並木の紅葉を眺めたり、手を広げて深呼吸をする静子さんの姿は元気そのものです。スーパーでも、迷うことなく必要なものを手に取り、かごに入れていきます。惣菜やお刺身をかごに入れ、「今日はこれを食べるわ、ご飯だけ炊けばいいわ」と話し、健康や栄養バランスを考えながら選んでいる様子。気分がすぐれなかっただけと推測し、帰路は歩行バランスなどに留意します。帰り際に急に手を差し出してきたのでそっと握り返すと、強く握り返してきました。

 どうしても時間内にサービスを終了させたいと思う気持ちが働きますが、利用者の生活スタイルや気持ちも多様で、日によってはうまくいかず、悩みます。計画作成の際に時間配分は考慮に入れてありますが、予定どおりにいかないのも当然と受け入れながら、基本を見失わず、知恵を働かせる応用力が必要なのだと思います。

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コラムニスト紹介

是枝 祥子

大妻女子大学 名誉教授

プロフィール

昭和39年東洋大学社会学部応用社会学科卒業後、児童相談所、更生相談所、特別養護老人ホーム、在宅介護支援センター、ヘルパーステーション等、数々の現場勤務を経験。

1998年より大妻女子大学人間関係学部人間福祉学科教授で同学部の学部長も務め、現在は同大学名誉教授。

介護職員の研修をはじめ、多くの介護人材育成に携わる。

著書・出版

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