へるぱ!

介護から学んだこと

第31回 積み重ねてきた生活      2021/5/17

 南加代さん(92歳、仮名、女性、要介護1)はひとり暮らしで、訪問介護サービスを週2回利用しながら生活しています。車で10分の所に長女が住んでおり、週1回、仕事帰りに立ち寄り、話し相手になっています。関節リウマチはあるものの、自分で工夫しながら日々を過ごしています。長女が一緒に住もうと言っても、「まだひとりでよいわ、そのうちお世話になるわ」と。

 家は一軒家ですが、近隣とは以前から仲良くしていて、かつては自治会やサークル、ボランティアなどで活動していたので友人もたくさんいます。近隣の買物支援サービス、通院は知人・友人や長女に手伝ってもらい、掃除や庭の手入れ、ペットの世話はボランティアの方々、と上手に連携しています。若い人から高齢の方まで人の出入りも多く、時々食べ物を持ち寄って、お茶会を開いていることもあります。南さんを中心に人が自然と集まってくるこの状況は、若いころから培ってきた生活スタイルの賜物でしょう。どの方々も笑顔と会話がステキです。制度上の地域包括ケアシステムではなく、毎日の生活の積み重ねを通して自然にできた関係を大事にし、地域に根ざした生活が送れています。時にはお惣菜が届いたり、困ったことがあると近隣のだれかが手を貸してくれます。

 訪問介護サービスは、入浴の見守りと調理が入っています。入浴の準備は南さんが行い、訪問介護員は浴槽の出入りに手を貸し、浴槽に入っているときや出るタイミングの声かけ、後始末をします。調理は、南さんがメモをした食材を洗って切り、密閉容器に入れて、いつでも調理ができるように下準備をします。体調がよいと一緒に作ることもあります。食材を使いきれないときは汁物にするなど工夫もしています。「いつまでこの生活が続くかわからないわ。皆さんに迷惑かけているけど、この家で暮らしたいのよ。お互いさまと言ってくれるので、甘えているの」と話す笑顔は満足感で一杯。

 南さんの暮らしにおいては、訪問介護サービスも含め周りの方々と自然な形で連携し合い、培ってきた生活が継続できるようにそれぞれが尊重し合うことが重要です。ともすると訪問介護は、介護保険サービスとして支援に入っているので、ついつい他との連携にも口を出しそうになりますが、「生活を支援する」という位置づけにおいては、他の方たちと同じです。南さんの暮らしを中心に、私たちも地域の社会資源の一つであると、あらためて意識させられます。

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コラムニスト紹介

是枝 祥子

大妻女子大学 名誉教授

プロフィール

昭和39年東洋大学社会学部応用社会学科卒業後、児童相談所、更生相談所、特別養護老人ホーム、在宅介護支援センター、ヘルパーステーション等、数々の現場勤務を経験。

1998年より大妻女子大学人間関係学部人間福祉学科教授で同学部の学部長も務め、現在は同大学名誉教授。

介護職員の研修をはじめ、多くの介護人材育成に携わる。

著書・出版

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