へるぱ!

介護から学んだこと

第28回 記録から見守り的援助に変更       2020/6/4

 桜田鈴子さん(80歳、仮名、女性、要介護1)は、5年前に夫が他界してからひとり暮らしです。膝関節症、認知症がありますが、生活はほぼ自立。起き上がりにはベッド柵を使用、歩行や移乗も自立していますが、時々ふらつきます。排泄は、尿意を伝えてくれることもあれば、間に合わないこともあります。訪問介護サービスでは掃除、買物、調理の生活援助を利用しています。

 訪問時はベッドで横になっていることがほとんどです。訪問介護計画では、体調確認をしてから、その日のサービスを行うため、声かけすると「トイレがしたい」と言い、ベッドから柵を持ち起き上がろうとします。ポータブルトイレで排泄を行いますが、足元がふらつき転倒の危険性があるので、毎回、声かけ後一部介助が必要です。また、重ね着のせいで下着がすぐに下ろせず、漏れてしまうことも度々で、時間がかかります。そのため、その後のサービスを急いで行うことになります。調理は本人の好みを聞きながらではなく、家にある材料を見てこちらから献立を提案、選んでいただかないとオーバータイムになってしまいます。

 訪問回数は週4回、訪問介護員3人で担当しています。どの人の記録にも、『起き上がりの見守り、ベッドからポータブルへの声かけ、一部介助で転倒防止を行い、下着を下ろす時は介助、上げる時は見守り』また、『リビングまでの移動は足のふらつきやもつれがあるため、声かけ・見守り』とあります。これらは訪問介護計画に入っていませんが、この援助抜きに、桜田さんの安全は守れません。なるべく手を貸さず、自分でできるよう見守りや声かけで対応していますが、支援に時間がかかるため、サ責からのカンファレンス提案により、話し合いの場を設けることにしました。

 訪問介護員3人で、現在の支援内容について話し合うと『ベッドの起き上がりの見守り、ベッドからポータブルトイレへ移乗時の転倒防止の声かけ・見守り、下着の上げ下げの見守り・一部介助、リビングまでの移動時の声かけ・見守り』が必要とのことで、皆の意見が一致しました。これらの内容をケアマネジャーに報告、今までの生活援助に身体介護を追加することができました。訪問介護員全員がきちんと記録していたことが今回の改善につながり、皆「記録」の効果を実感したのです。この出来事は、現在行っている他の援助にも同じことが言えるのではないかと、全体を見直すいい機会にもなりました。

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コラムニスト紹介

是枝 祥子

大妻女子大学 名誉教授

プロフィール

昭和39年東洋大学社会学部応用社会学科卒業後、児童相談所、更生相談所、特別養護老人ホーム、在宅介護支援センター、ヘルパーステーション等、数々の現場勤務を経験。

1998年より大妻女子大学人間関係学部人間福祉学科教授で同学部の学部長も務め、現在は同大学名誉教授。

介護職員の研修をはじめ、多くの介護人材育成に携わる。

著書・出版

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