へるぱ!

介護から学んだこと

第27回 できないこともあるのよ       2020/1/10

 畑野道夫さん(77歳、仮名、男性、要介護1)はひとり暮らしです。糖尿病があり栄養管理が必要ですが、気にせず気ままに暮らしています。加齢とともに身体機能が低下し、外に出る機会も少なくなってきました。最近では認知機能の低下も見られ、ひとりで生活することが難しくなっています。訪問介護サービスは週3回で買物、調理、掃除。他のサービスは利用していません。ケアマネジャーが通所など他のサービス利用を勧めても、「いや」と言うだけです。

 気難しい面が多々あって、コミュニケーションもとりにくく、訪問しても鍵を開けてくれないことも。玄関前で電話するのですが、出てくれません。かなりの時間が経ってからやっと鍵を開けてくれることもよくあります。体調を観察しながら「掃除をしますが、いいでしょうか」と尋ねても、返事は返ってきません。居間で椅子に寄りかかり、目をつぶっています。キッチンやベッドまわりを掃除しながら、散乱している新聞や菓子袋を片づけました。その後、お菓子類は食べていると確認して、残っている炊飯器のごはんでチャーハンとおにぎり、ゆで卵を急いでつくって冷蔵庫に入れました。「買物はどうしましょうか」ときくと、「行かなくていい」と答えます。
 帰りの挨拶をしても目を閉じたままです。

 数日後の訪問では、鍵は開けてくれたものの前回同様、居間で椅子に寄りかかり目をつぶっています。顔色は良いのですが、声をかけても応答はなし。買物についても返事はなし。調理は保存していた缶詰や乾物でつくりました。時折り、声をかけます。新聞はポストから取り出している様子ですが、下駄箱の上に置いたまま。着替えはしていないのか、洗濯機の中は空のままです。が、チャーハンなどは食べた様子。

 キーパーソンは近隣に住む弟ですが、「何を考えているかわからない、力になろうと思っていても、断られてしまうので何もできない」と頭を抱えています。畑野さんは定年まで働き、その後、特に趣味もなく友人との行き来もないようです。親戚とのおつき合いはしていますが、最近では集まる機会もなくなっている様子。元々人との交流は少なかったそうです。

 ケアマネジャーと話し合っても、畑野さんの気持ちがつかめません。しばらくは模索しながら関わることにしていますが、答えがないことはわかっているし、何もできないこともわかっていますが、糸口はあるはず……引き出しが足りないのかな。

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コラムニスト紹介

是枝 祥子

大妻女子大学 名誉教授

プロフィール

昭和39年東洋大学社会学部応用社会学科卒業後、児童相談所、更生相談所、特別養護老人ホーム、在宅介護支援センター、ヘルパーステーション等、数々の現場勤務を経験。

1998年より大妻女子大学人間関係学部人間福祉学科教授で同学部の学部長も務め、現在は同大学名誉教授。

介護職員の研修をはじめ、多くの介護人材育成に携わる。

著書・出版

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