へるぱ!

介護から学んだこと

第25回 その人らしい生活を支えること       2019/6/25

 長野ゆきさん(88歳、仮名、女性、要支援2)は、ひとり暮らしです。書類や金銭管理は年に2~3回訪問する、遠方に住んでいる姪が代行しています。長野さんは自立心が強く、家事全般をひとりで工夫しながら行っており、週2回の訪問介護サービスを利用。内容は、買物・掃除・調理・入浴の見守りです。

 長野さんは最近、加齢とともに身体機能が低下し、足元のふらつきや体調の変化が目立つようになりました。「風呂場で少しふらつきがみられた」「歩く速度がゆっくりだった」「無表情だった」「動作がゆっくり」「今までと違う雰囲気だった」「会話が通じないようであった」「味見をしたとき、頷くだけだった」「食事を残すようになった」など、訪問介護員からの気になる情報が増えてきたので、様子を見に行くことにしました。

 ゆっくりとした動作に、口数や表情も乏しく、確かに数ヵ月前とは違う様子でしたが、生活そのものに支障があるわけではありません。受診もしましたが、病気もなしです。ケアマネジャーや姪にも共有連絡しつつ、長野さん自身は「このままこの家で暮らしたい」と希望されるので、状態を把握しながらサービスを継続していくことになりました。

 やがて歩く速度が落ち、足が上がらず、すり足、手引き歩行での移動、椅子に座るのにも支えが必要になりました。食事は好物を聞いて、小さなお皿に盛り付け、果物やケーキを添えてお出しします。「あら、美味しそうね、素敵だわ」と言いながらゆっくり口に運ぶ長野さん。自宅での入浴が難しくなってきたので、デイサービスの利用を勧めたのですが、「家のお風呂がいいの」と言い、こちらはハラハラしながらの見守りです。

 このようなサービスが半年くらい続きました。介護度は更新で要介護1に。医師からは「そろそろひとり暮らしは難しいのではないか」と言われ、本人に伝えると「覚悟しています。皆さんに迷惑をかけるかもしれませんが、このままにしてほしい」と強い口調での返答となり、医師もそれ以上は言えませんでした。

 訪問介護サービスが増加されるに伴い、訪問介護員のアセスメント力が重要になります。サービス提供責任者は観察の仕方や記録、情報の伝え方等をその都度アドバイスしました。たくさんの情報を取捨選択することや、伝え方を明確化することで、他職種との連携が短時間かつスムーズになりました。こうして長野さんの「家で暮らしたい」を共有しながら、支援することができたのです。

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コラムニスト紹介

是枝 祥子

大妻女子大学 名誉教授

プロフィール

昭和39年東洋大学社会学部応用社会学科卒業後、児童相談所、更生相談所、特別養護老人ホーム、在宅介護支援センター、ヘルパーステーション等、数々の現場勤務を経験。

1998年より大妻女子大学人間関係学部人間福祉学科教授で同学部の学部長も務め、現在は同大学名誉教授。

介護職員の研修をはじめ、多くの介護人材育成に携わる。

著書・出版

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