へるぱ!

介護から学んだこと

第19回 自分でしたいことを見つけ、活用しよう       2017/6/23

 新橋昭子さん(80歳・仮名・女性)はひとり暮らしです。膝関節症なので、室内はつかまり歩行でふらつきがあり、転倒の危険性もあります。息子二人は他県で暮らしており、要介護1、週2日のデイサービスと週3日の訪問介護を利用しています。訪問介護のサービス内容は、調理、買物、洗濯、掃除と移動時の一部介助が主です。

 新橋さんがいつものように洗濯を干していると、「こんな青空のとき、洗濯干しは気持ちいいわよね。洗濯が一番の気晴らしだったのに…」という声が聞こえました。物干しには背伸びしないと届かないため、転倒防止も兼ねて洗濯干しは避けていただき、畳む方をお願いしていました。ですが、一番の気晴らしを何とかできるようにはできないだろうか、と考え、干す場を変更するなどして、実際に行ってもらったのですがなかなか上手くいきません。「やっぱりだめね。できることはなくなっちゃった…」

 とはいえ、そのままにしていては自立支援サービスにはなりません。器用な友人にボランティアを依頼し、現状を維持しつつ、ベランダへの出入り口の段差を解消。物干しの高さやハンガーなどを工夫して、洗濯が自分でできるようになりました。「こんなことでも自分でできると、まだまだひとり暮らしはできるなあ」「ほかにもできることはないかと探しているの」と言いながら、テーブルの上を片づけ、拭いていました。

 家の中を整理整頓して暮らすということは、手抜きもできますが、頭も体も使います。きちんと自分ですれば「できた!」という爽快感も味わえます。新橋さんの暮らしを支えるうえで、できないことをサービス提供することも大切ですが、できることを見つけ、“どのようにすれば新橋さんらしい暮らし方ができるか”を話しや動作から気付くようにすることも大切です。単なる家事行為の提供に終われば、新橋さんはどんどんできることが少なくなっていってしまうでしょう。

 新橋さんのできそうなことは何か、この援助方法でよいか、これを続ければ新橋さんの暮らしはどうなるのか、を意識して行わなければ、生活援助は単純な流れ作業になってしまいます。「その人らしさを守れているか」、「危険なことはないか」、「安全に配慮しているか」、「本人のできるところを活用しているか、あるいは、できるところはないか」「心身の変化はないか」など、多様な視点での観察や確認を丁寧に行うことで、暮らしが守られていくのだと思います。

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コラムニスト紹介

是枝 祥子

大妻女子大学 名誉教授

プロフィール

昭和39年東洋大学社会学部応用社会学科卒業後、児童相談所、更生相談所、特別養護老人ホーム、在宅介護支援センター、ヘルパーステーション等、数々の現場勤務を経験。

1998年より大妻女子大学人間関係学部人間福祉学科教授で同学部の学部長も務め、現在は同大学名誉教授。

介護職員の研修をはじめ、多くの介護人材育成に携わる。

著書・出版

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