へるぱ!

知って得する薬の話!

第12回 抗うつ薬      2021/4/9

 コロナウイルス感染症の出口が見えない地球の中で、3密を守ることは、人類をコロナから守ることになります。
・密閉(換気が悪い)…窓や換気扇がなく、換気ができない場所にいる
・密集(人が密に集まって過ごすような空間)…大人数が集まる、近い距離で人が集まる
・密接(不特定多数の人が接触するおそれが高い場所)…手の届く距離で会話や発声、運動などをする
などです。

 ハグなどはもってのほかです。しかし、私たちは人の温もりのなかで生きています。嬉しい時には抱きしめあって喜びを分かち合い、悲しい時には抱き合って悲しみを慰めあいます。コロナ感染症が始まってからは握手も許されず、温もりを感じ合う機会もなくなりました。知らず知らずのうちに、心の病にかかる人が増えています。うつ病・うつ状態は、平常時でも15人に1人の割合で発病しています。ハグが出来なければ、薬の力を借りて、トンネルを抜けるまで我慢するしかないように思います。

介護コラム

 今回は、介護現場で知っておきたい「抗うつ薬」のお話をします。

 在宅や外来で、心を閉ざした高齢者に出会います。高齢者は、身体の老化に伴い、生活条件や環境の大きな変化に対応できなくなり、うつ病やうつ状態に陥りやすくなります。まず、不安や焦燥感、身体的不調を訴える(何もする気にならないなど)ことから始まり、進行すると自殺の危険性を感じることもあります。

 高齢者と接する時に、次のような症状が出てきたら、うつ病の可能性を考えてみます。高齢者は他の世代よりもうつ病になりやすく、日本では高齢者の8人にひとりが治療の必要な程度であるといわれています。高齢者の場合には、配偶者や兄弟、友人など身近な人の死に直面し、ショックや孤独を感じることからうつ病を発症することも少なくありません。高齢者のうつ病は重症化することも多く、落ち着きがなくなったり、何も食べられなくなることもあります。また、妄想を抱くようになることもあります。

介護コラム

うつ状態とは?

 うつ病とは、気分が滅入る、不安だ、いつも気持ちが追い立てられる、死にたい等の精神症状、眠れない、食事が進まない、疲れやすい等の身体症状を呈した状態をいいます。
 うつ状態とは、精神身体活動のエネルギーが極端に落ちた状態をいいます。原因は分かりませんが、セロトニンやノルアドレナリンのような神経伝達物質であるモノアミン欠乏の仮説が立てられています。    

介護コラム

うつ病の症状

・食欲の変化・・・食欲不振、著しい体重の減少。
・睡眠パターンの変化・・・入眠困難、中途覚醒、早朝覚醒、過眠。
・興味の喪失・・・テレビや新聞を見ない。いままでの趣味をやめてしまう。
・気力の喪失・・・何もする気がしない。寝ていたい。
・希死念慮、自殺企図・・・死にたいという。
・身体症状・・・頭痛、胃痛など。
・その他・・・絶望感・不適切な罪の意識・集中力低下・思考力低下・決断力低下
以上のような症状でうつ病と診断がつけば、周りは次のような対応をする必要があります。

介護コラム

うつ病の対応

・休養と薬物治療が必要で、うつ病は病気であると受けとめる。
・うつ病には抗うつ薬がよく効くので、きちんと薬を飲むように見守る。(効果が出るのに1~2週間)
・心身とも十分な休養が必要。
・夜間眠れないのが普通ですので、睡眠薬を使うこともある。
・テレビを見るときなどは、出来るだけコメディやコントなど明るい番組を勧める。
・一日に一度は、軽い散歩に出かけるように勧める。
・家の中では、軽い運動を行うように心がける。
・抗うつ薬は、副作用として眠気、ふらつきが出ることがあり、転倒に気をつける。
・励ましは厳禁!気楽に頑張りましょうなどの言葉がけをしないように気をつける。
・うつ病者は程度の差はあれ、希死念慮を抱いているため、自殺防止の配慮が必要。
・完全に回復するのには時間がかかり、普通でも1-2ヶ月はかかる、気長に寄り添う。
以上のようなことに、気を配りながら、必ず医療関係者と連携するようにします。

(うつ病の診断基準)DSM-5
以下の症状のうち、少なくとも1つは該当する。
① 抑うつ気分
② 興味または喜びの喪失
さらに、以下の症状のうち、合計で5つ以上が該当する。

1. 食欲の減退あるいは増加、体重の減少あるいは増加
2. 不眠あるいは睡眠過多
3. 精神運動性の焦燥または沈滞
4. 易疲労感または気力の減退
5. 無価値感または過剰(不適切)な罪責感
6. 思考力や集中力の減退または決断困難
7. 死についての反復思考、自殺念慮、自殺企図

 上記症状が、ほとんど1日中、かつ、ほとんど毎日、2週間にわたって続いているために、著しい苦痛または社会的、職業的、または他の重要な領域における機能障害を引き起こしている。これらの症状は一般身体疾患や物質依存(薬物またはアルコールなど)では説明できない。

うつ病の薬理作用
 うつ病の治療には、低下しているセロトニンやノルアドレナリン等のモノアミンの量を増加させることで治療の効果を表します。脳内の神経伝達物質であるノルアドレナリンとセロトニンの神経細胞内への再取り込みを阻害して、伝達物質の増加により気分を活性化させます。原則単独で少量から使用します。症状によっては、抗不安薬、睡眠薬、抗精神薬を併用します。

三環系、四環系抗うつ薬
 シナプス前部のセロトニンとノルアドレナリンの再取り込みを阻害し、モノアミン濃度をあげて、抗うつ作用を示します。効果は高いが便秘、口渇、尿閉などの抗コリン作用が強く、効果発現はSSRIよりも遅く、約1ヶ月以上はかかる。

選択的セロトニン再取り込阻害薬(SSRI)
 セロトニンの神経終末への再取り込みを阻害します。セロトニン濃度の増加により、抗うつ作用を示します。

セロトニン・ノルアドレナリン阻害薬(SNRI)
 セロトニンとノルアドレナリンのトランスポーターに結合し、神経終末への再取り込みを阻害し、両者の濃度を増加させ抗うつ作用を示します。

セロトニン・ノルアドレナリン作動性抗うつ薬(NaSSA)
 セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害作用並びにセロトニン・ノルアドレナリン受容体調節作用を有し、抗うつ作用を示します。

SARI
 セロトニン受容体遮断や再取り込み阻害薬(SARI)といわれ、セロトニンの働きを改善して抗うつ薬作用を示します。抗コリン作用少なく、鎮静作用強いです。

分類 代表的 商品名 副作用
三環系抗うつ薬 アモキサン 口渇
四環系抗うつ薬 テトラミド 眠気
SSRI パキシル 倦怠
SNRI サインバルタ 傾眠
NaSSA リフレックス 頭痛
SARI デジレル 低血圧

 コロナが収束するまで、ズームなどのリモートでのコミュニケーションでも支えあいながら、コロナを乗り切らなければなりません。薬をリスクにしないように理解しましょう。

介護コラム

一覧へ戻る

コラムニスト紹介

藤澤 節子

NPO法人DANKAIプロジェクト副理事長
NPO法人在宅医療・緩和ケアカンファレンス理事

プロフィール

薬剤師。北里大学薬学部薬学科卒。調剤薬局を経営するかたわら、訪問薬剤師として在宅医療に従事。現在、NPO法人DANKAIプロジェクト副理事長、NPO法人在宅医療・緩和ケアカンファレンス理事を務める。

著書・出版

トップページへ