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知って得する薬の話!

第11回 消毒      2021/1/20

 人類が誕生して以来、私たちは怪我や病気をした時に自然物質から、治してくれる植物や鉱物を探し求めてきました。そして、学問の発達とともに、病気を治し、病気を予防する化学物質としての薬が確立してきたのです。

 地球が生まれてからの歴史の中で、どの時代も人類は病気との戦いであったと言っても過言ではないと思います。紀元前から記録に残る天然痘は伝染力が強く死に至る病気として恐れられ、幸いに治癒したとしても、顔などに瘢痕が残るために、なお恐れられてきました。江戸時代では、はしかが度々大流行を繰り返し、天然痘より死亡率が高く、天然痘は器量定め、はしかは命定め、と言われました。

 また、1900年代前半に大流行したスペイン風邪では、5000万人の死者を出し、人類史上もっとも死者数を出したパンデミックと言われています。どれもこれも、原因は病原微生物で、今地球上で騒がれている新型コロナウイルス感染症と同じウイルスが原因です。

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 今でも感染がたえない結核は細菌が原因の疾患です。この目に見えない微生物が人間の生体内で増殖し、命を脅かす存在となるのです。もし人間を地球に例えるとしたら、細菌は小鳥から象の大きさで、ウイルスは米粒より小さいことが分かっています。

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 私たちは、細菌の発見、ウイルス学の進歩等により、治療薬として抗生物質等が作られ、予防薬としてワクチン等が開発されました。医学の進歩と共に、私たちは多くの数、また多くの種類の薬を作ってきました。

 過去もそして未来も、世界中が病原性微生物に振り回されています。しかし、今後も私たち人類は、細菌やウイルスを消し去る薬を開発し、感染症と戦い、制圧していくことになります。今ある薬だけではなく、絶え間なく薬の研究は続いていきます。

 新型コロナウイルスの感染だけではなく、冬に向えば、風邪やインフルエンザ、ノロウイルスのお腹の風邪が流行する季節となります。また、傷を負えば、その傷口から細菌が入り、化膿してきます。蜂窩織炎も細菌感染によって起こります。

 細菌やウイルスによる感染症は、扱い方を間違えてしまうと、かえって感染を拡げてしまう結果となります。感染症の正しい知識をもち、利用者の衛生管理に気をつけましょう。感染症はどのように移るのでしょうか?

・接触感染:直接(手や器具等で)病源微生物と接することで感染します。
・飛沫感染:くしゃみや咳、会話等によって病源微生物が飛び散り感染します。
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・空気感染:病源微生物が空気中をただよい、感染します。
・血液感染:病源微生物の入った血液のついた針やカミソリなどから感染します。

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 感染は、元となる病原微生物があり、感染が移っていく感染経路があり、その上、一人一人のもつ感染症に対する抵抗力が影響します。ワクチンは、人の抵抗力を強めていきます。また、消毒は感染経路を遮断する方法となります。

 施設などでは感染対策の施行により、感染予防のチームなどが作られていますが、在宅の現場でも、消毒薬の正しい使い方や感染症対策が流行の拡大を防ぎます。

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新型コロナウイルスの消毒に使われる消毒薬
①エタノール(消毒用エタノール)

・新型コロナウイルスでは70%〜95%が有効とされていますが、60%台のエタノールを使用した消毒でも問題はありません。
・手指・皮膚の消毒、器具類の消毒のほか、創傷面の殺菌・消毒にも用いられます。
・皮膚刺激性が強いため、患部表面を軽く清拭するにとどめ、脱脂綿やガーゼに浸して患部に貼付することは避けます。
・粘膜(口唇等)や目の周りへの使用は避ける必要があります。
・揮発性で引火しやすく、また、広範囲に長時間使用する場合には、蒸気の吸引にも留意する必要があります。
・アルコールに過敏な人の使用は控えます。

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②塩素系殺菌消毒成分(漂白薬)

・市販の家庭用漂白剤を、次亜塩素酸ナトリウムの濃度が0.05%になるように薄めます。
・新型コロナウイルスには、次亜塩素酸ナトリウムは有効ですが、テーブルやドアノブなどのモノに適しています。手指や皮膚には使用しません。
・冬に流行するノロウイルス感染症にも有効です。
・次亜塩素酸ナトリウムやサラシ粉などの塩素系殺菌消毒成分は、強い酸化力により一般細菌類、真菌類、ウイルス全般に対する殺菌消毒作用があります。
・皮膚刺激性が強いため、人体の消毒には用いられません。
・金属腐食性があり、プラスチックやゴム製品を劣化させます。
・漂白作用があり、毛、絹、ナイロン、アセテート、ポリウレタン、色・柄物等には使用を避ける必要があります。
・酸性の洗剤・洗浄剤と反応して有毒な塩素ガスが発生するため、混ざらないように注意する必要があります。
・吐瀉物や血液等が床等にこぼれたときの殺菌消毒にも適していますが、有機物の影響を受けやすいので、殺菌消毒の対象物を洗浄した後に使用した方が効果的です。

③塩化ベンザルコニウム(0.05%以上)、塩化ベンゼトニウム(0.05以上)

・新型コロナウイルスには有効ですが、テーブルやドアノブなどのモノに適しています。手指や皮膚には使用しません。
・石鹸との混合によって殺菌消毒効果が低下するので、石鹸で洗浄した後に使用する場合には、石鹸を十分に洗い流す必要があります。

④グルコン酸クロルヘキシジン(0.02以上%)、塩酸クロルヘキシジン(0.02%以上)

・手指・皮膚の消毒、器具類の消毒のほか、創傷面の殺菌・消毒にも用いられます。

⑤次亜塩素水

・テーブルやドアノブなどのモノに適しています。

 これ以外にも消毒薬はありますが、それぞれの特徴長を学び、効果的な使い方をする必要があります。消毒薬も含めて、それぞれの時代の戦いの中で、病気やけがを予防したり、治したりする化学物質として、すばらしい道具である薬が確立したのです。

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コラムニスト紹介

藤澤 節子

NPO法人DANKAIプロジェクト副理事長
NPO法人在宅医療・緩和ケアカンファレンス理事

プロフィール

薬剤師。北里大学薬学部薬学科卒。調剤薬局を経営するかたわら、訪問薬剤師として在宅医療に従事。現在、NPO法人DANKAIプロジェクト副理事長、NPO法人在宅医療・緩和ケアカンファレンス理事を務める。

著書・出版

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