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知って得する薬の話!

第5回 抗インフルエンザウイルス薬

インフルエンザ流行の時期がやってきました。インフルエンザの予防接種は済まされましたか?特に高齢者が多い介護支援施設では、様々な予防策に努められていることと思います。

予防接種は「個人防衛」と「集団(社会)防衛」の両方の目的を持ち合わせています。個人防衛とは、予防接種した個人を守ること、そして集団(社会)防衛とは、多くの人の力で流行を防ぐことです。ハイリスクな方(65歳以上の高齢者や心肺系の慢性疾患、糖尿病、腎疾患など)はもちろん、流行を防ぐためには介護者も予防接種を受けるようにしましょう。流行を抑える最も効果的な方法は予防接種です。メディアでは、目に見えやすい予防接種の副反応ばかりが報道され、実際の予防接種の効果は見えにくく、その恩恵もなかなか感じにくいかもしれません。しかしながら、予防接種を受けていない周囲の方からインフルエンザウイルスの流行が起きるケースは少なくありません。体の弱い高齢者や乳幼児にいたっては重症になって死亡してしまうことも。犠牲者を出さないためにも、自分がかからなければ良いのではなく、周りの大切な方のために予防接種を受けるようにしましょう。

もし、様々な予防策を講じたにもかかわらず、重症化する恐れがあるハイリスクな方がインフルエンザウイルスにかかった場合は、抗インフルエンザウイルス薬が使用されます。下記の表は、現在発売されている抗インフルエンザウイルス薬です。

作用 商品名 剤形 投薬回数と日数
ノイラミニダーゼ阻害 タミフル カプセル、ドライシロップ 1日2回5日間内服
リレンザ 吸入薬 1日2回5日間吸入
イナビル 吸入薬 1回吸入
ラピアクタ 点滴静注 1回点滴
M2蛋白イオンチャネル阻害 シンメトレル 錠剤 1日1~2回可能な限り短期間

一般的に、インフルエンザの特効薬といわれるものは、ノイラミニダーゼ阻害作用がある薬のこと。ノイラミニダーゼは、インフルエンザウイルスA型とB型の表面についており、ヒトなどの細胞で増殖して遊離させるのに関わっています。ノイラミニダーゼを阻害し遊離させるのを抑えれば、インフルエンザウイルスを増殖させず症状が改善します。インフルエンザウイルスを増殖させないことで効果を発揮する薬ですので、発症から48時間以内に投与することが重要です。また、ウイルスの再燃や耐性株の発現を避けるために症状が改善しても指示された日数はきちんと服用しましょう。

ノイラミニダーゼ阻害薬には、吸入薬・経口薬・点滴静注の3つの剤形があり、患者さんの状態に合わせて選択することができます。インフルエンザウイルスは上気道を好んで増殖しますので、吸入薬が効果的です。吸入薬は飲み薬のように全身に薬剤が巡らないので副作用が起こりにくく、少ない量で効果が期待できます。

吸入薬のリレンザ、イナビルはドライパウダータイプです。とても細かい粉を吸い込むことで上気道に薬を付着させ効果を発揮します。薬を吸い込んだ感覚はほとんどしませんが、気管支喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの慢性呼吸器疾患の患者さんには、刺激になることがあり、呼吸困難を起こす可能性もあるので注意が必要です。

イナビルは1回きりの吸入薬。薬が交付されたその場で確実に吸入すればよいので、飲み忘れが心配な患者さん向きといえます。

吸入が困難な患者さんには内服薬のタミフルがあります。タミフルは腎機能が低下している患者さんには量を少なくする必要があるので、腎機能が低下していることを必ず医師に伝え、検査値(クレアチニンクリアランスなど)を参照していただいてください。

抗インフルエンザウイルス薬の予防目的で投与することは、リレンザとタミフルが条件付きで認められていますが、保険給付されませんので自費での診療・薬の交付となります。予防で服薬するには原則として以下の条件が付いています。

予防に用いる場合には、原則として、インフルエンザウイルス感染症を発症している患者の同居家族又は共同生活者である下記の者を対象とする。
(1) 高齢者(65歳以上)
(2) 慢性呼吸器疾患又は慢性心疾患患者
(3) 代謝性疾患患者(糖尿病等)
(4) 腎機能障害患者

諸外国に比べ日本では、抗インフルエンザ薬が重症化する可能性のない健康成人にも投与されるケースが多い傾向にあります。インフルエンザにかかっても処方医の判断で、抗インフルエンザウイルス薬は処方されずに、対症療法薬(解熱薬など)だけで経過をみることがあります。

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コラムニスト紹介

藤澤 節子

NPO法人DANKAIプロジェクト副理事長
NPO法人在宅医療・緩和ケアカンファレンス理事

プロフィール

薬剤師。北里大学薬学部薬学科卒。調剤薬局を経営するかたわら、訪問薬剤師として在宅医療に従事。現在、NPO法人DANKAIプロジェクト副理事長、NPO法人在宅医療・緩和ケアカンファレンス理事を務める。

著書・出版

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