へるぱ!

今回のヘルパーさん

第77回 山田貴恵さん

東京都江戸川区、JR総武線・小岩駅より徒歩3分『有限会社 菜の花 江戸川』でサ責として働く、山田貴恵さんにお話しを伺いました。

介護の仕事との出会い

友人の話を聞いてビビッ!と。翌日にはヘルパー2級講座に申し込んでいました。

―山田さんが介護職に就いたきっかけは?

友人から「介護に詳しい人が身内に1人でもいればよかったな」と話を聞いたのがきっかけです。その友人は認知症のおばあちゃんを近所に住む家族が交代交代で面倒を見ていて「最初はうまくいっていても『誰がやった、やらない』で揉め事が増えて、苦労している」と話してくれました。「知識ある人が1人でもいれば、もっとスムーズにいったかもしれないのに」って。

たわいない世間話の延長だったと思うのですが、私はその話を聞いて『ビビッ!』ときたんですよね。その日のうちに両親や家族に「介護の勉強がしたいのだけれどいい?」と相談して、次の日にはヘルパー2級の講座に申し込んでいました。

―すごい行動力! その話を聞いただけで「やりたい」気持ちが募ったわけですものね。

そうですね。私も主人もここ小岩が地元で、家族皆周囲に住んでいるので、友人の話は決して他人事じゃなく、自分が当事者になる可能性もあるわけで…。身内で介護が必要になった時、少しでも役に立てたらいいなという思いがあったのと、慎重派の私が突っ走れるほど、直観的に「これだ!」と思える“何か”がその時感じられたからでしょうね。

―講座を受講して、いざ勉強を開始してどうでした?

授業が面白くて仕方なかったです。生活の中にあるものを使ってケアする方法を教えてくださる先生で。ケリーパッド1つ作るにしても、既存のものを買うのではなく、ゴミ袋のなかにタオルを入れて作る、とか。お金をかけなくても工夫とアイディア次第でこんなに色々なことができるんだと興味津々でした。

―だいぶ実践に近い、実益ある授業内容だったようですね。

本当にそうでしたね。講座を受けて家に帰ればすぐ出来る。それが毎回驚きでした。元看護師で訪問看護をされていた方が先生だったので、医療知識も豊富、かつ学ぶことも多く、あっという間に講座期間が過ぎていきましたね。

―資格取得後はすぐにでも働きたいと?

はい。子どもがまだ小さかったので1日拘束の職場は選べず、「週に1回3時間からOK」というような求人を見つけて、まずはここからと大手の訪問事業所で働き始めました。でも、会社が大きいと末端までなかなか仕事がまわって来ず…。新人だから重度の所には行かせられないので余計にですよね。仕事量が少ないことに物足りなさを感じるようになり、掛け持ちするために他を探して面接に行ったのがここ『(有)菜の花 江戸川』です。

面接で「明日からできる?」と聞かれ、すぐに採用いただきました。介護の仕事がやりたくてやりたくウズウズしていたので、内心「やったー!」って(笑)。そして働いて数か月、『(有)菜の花 江戸川』の管理者や所長の『ご利用者さん中心に物事を考える』という考え方にすごく共感できたこと、そして、ヘルパー1人1人としっかり向き合ってくれる職場だと実感できたことから、こちら1本に絞って働くことにしました。

―『しっかり向き合ってくれる』とは、例えばどんな場面でそう感じました?

「こうだからこうして」と四角四面に言うのではなく「あなたはどう思う?」と上司が必ず聞いてくれます。「任されている」意識が高まって、すごくやる気が出るんですよ。ダメな時にはなぜダメなのか、根拠をきちんと説明してくださるので、すぐに納得できますし。迷いや戸惑いもすぐ解消できました。事業所が立ち上がって1年目ぐらいでの雇用でしたが、ご利用者さんの話はもちろん、登録ヘルパーを大事にする環境が当初から整っている事業所でした。

―山田さんはそれから『(有)菜の花 江戸川』で勤務歴11年ですものね。

あっという間の11年です。「このまま続けて、気づいたらここのご利用者さんになっているかも?」なんて社員同士でよく話しています(笑)。

比較的自由に働かせてもらえるなかで、社員それぞれがお琴の弦みたいだなと思うことがよくあります。個々の張り具合が違うからこそ、いい音楽が奏でられるのだと。同じ仕事をしていても、考え方や方法も皆違いますから。でもその個性が上手に活かされているのが『菜の花』らしさであり、楽しく仕事ができている根本かなと思います。

ご利用者さんから教わったこと

その方が何を大切に生きてこられたのか、過去を知る大切さを学びました。

―ご利用者さんとのエピソードを聞かせてください。訪問現場で苦労した点って何かありますか?

気持ちの切り替えには苦労しました。訪問の仕事って1日に何軒も行くので、その度にそのご利用者さんに見合う自分を少なからず演じる必要性があって。そこは慣れるまで大変でした。

―ご利用者さん1人1人違いますものね。

日によっても違いますよ。「あっ! 今日はこの接し方じゃダメなんだ…」なんて、しょっちゅうです。ご利用者さん側も自分をつくられていたりして、しばらく年月が経ってから、「実はこう思っていた」なんて言われることもしばしば。勘違いをしたままケアに入っていた、本心に気付けなかった、という失敗はよくあります。

―それでも前向きに受け止めて?

そうですね。お給料をもらっているから仕事ではあるのだけれど、私自身は人生勉強だと思っている部分も多分にあって。解決しづらい問題にぶち当たると、「これって私をレベルアップしてくれる課題かも!?」なんて前向きに捉えるようにしています(笑)。何事も勉強ですから。

―ご利用者さんで印象に残っている方っていらっしゃいますか?

私と関わったご利用者さん、みんな“運命の出会い”と感じていたりもするのですが…。でも、それまでの私の考え方が変わったきっかけを作った男性のご利用者さんのことは特に印象的ですね。

その方、いつ行っても不機嫌で、ちょっとしたミスでも怒るので、訪問に入るヘルパー全員が毎回びくびだったんですよ。でもある日突然、私がケアに入ったら大粒の涙をこぼして号泣されて。話を聞けば、私と同世代の娘さんをその歳頃で亡くされたそうで、私達ヘルパーを見ては娘のことを思い出し、色々想いが巡ってしまっていた…と言うのです。単に機嫌が悪いと思っていたら原因は別の所にあったわけです。

ヘルパーって、こんなにも人のデリケートな部分に踏み込む職業なんだ、と改めて思い知った出来事でした。無神経なことはできないなって。その方が何を大事にして生きてこられたか、過去にはどんなことがあったのか、今現在だけではなく、過去を知る大切さを学びました。その方の歩んでこられた生活史みたいなものは、とても大事な情報源なんですよね。

サ責という仕事とこれから

解決の糸口は話すこと! 現場に入るヘルパーさん達の情報は宝の宝庫。

―サ責になられたのはいつですか?

4年前です。最初はおっかなびっくりで。でもやりがいの方が大きかったです。

―そう思えたのはどうしてですか?

解決の糸口が必ずどこかにある、と分かったからでしょうか。登録ヘルパーだった頃、困ったことがあっても逃げ道がいっぱいあって。サ責に相談すればいいや、とかあまり深く考えていなかったですよね。でも今は自分が解決しなければいけない立場なので、色々と考えを巡らせています。すぐに答えはでなくても、『絶対どこかに道があるから、一緒に考えましょう』と自信を持って言えるまでになりました。

―解決の糸口はどう見つけ出すのですか?

じっと考えるよりは、何か別のことをしながら考えます。あとは、とにかく話すこと! 話し合いです。スタッフのアイディアほど宝の宝庫はなくて、現場に入っていたヘルパーが事業所に来ていたりすると「ねぇねぇ」と声をかけて、それはもう根掘り葉掘り…(笑)。私に限らずスタッフ全員がそんな感じですね。よく喋る職場ですよ~。個性が活きるケアと先程話しましたが、ヘルパーそれぞれが見る目線も違うので、聞き出せる情報も個々に違います。それが貴重で、収集していくうちに何らかの糸口に繋がることが多いですね。

―では、ヘルパーの育成面ではどうですか?

まずはこの仕事の良さ、人と人とのコミュニケーションの楽しさを理解してもらうことが先決です。そして1人でもやっていける、と思えるまでは全力で守ります。その後は、羽ばたけ~ってポーンと背中を押す感じでしょうか。

―最初は全力で守るのですね。

はい。私も過去たくさん先輩方に守っていただいたので、自分も…という気持ちが強いです。うちのヘルパーは技術面ではきちっとできている人がほとんどなので、その点は心配していません。ただご利用者さんとの相性はどうしてもあるので、適材適所人材配置するために、ヘルパーの性格をしっかり把握することが大切だと思っています。

このご利用者さんにはこのヘルパーさんに行ってもらいたいから、この時間で訪問が可能かご利用者さんに交渉してみよう、ぐらいのスタンスで動いているので、個々のヘルパー情報は常に頭に入れるようにしています。

―スケジュール作りはどうされていますか?

うちはサ責が作るのではなく、管理者が一括して作っています。1ヵ月分を壁にバッと貼り出すのですが、これを見れば、誰がいつ、どこで、働いているか、一目で分かるという優れものです。

―まさか全員分をお1人で!?

そうなんですよ。これ本当にすごいですから。登録ヘルパーの勤務希望を毎月回収して一晩かけて作るのですが、出来上がった後は、社員の私達が「ここは~あそこは~」と言って色々修正も入りつつ、ようやく完成するという。このスケジュールのおかげで、助け合いの精神も自然と生まれていると思います。

「ここパンパンだね。私、手伝おうか?」といった相手の動きが見えるからこその声かけがあって、相手を気遣う気持ちも皆人一倍強いので、いかに察して、手を差し伸べるか、それが自然とできている職場だなと常々感じています。

―ステキな職場ですね。

はい。

―最後に今後の抱負など何かありますか?

当初はこんなに介護の仕事を続けるつもりじゃありませんでした。家族のために何か役立つ程度の知識や経験が得られれば…くらいだったので。でもやればやるほど気持ちは変わり、今はこの仕事で得たことを実生活に役立てていきたいという気持ちが強くなりました。

私にとって介護とは、山登りをする方がよく答える『なんで山を登るの? そこに山があるから』という感覚ととても似ています。どうして介護? なぜこの仕事? と考えるまでもなく、この仕事を続けていることが私にとってはごく自然なことのように感じます。

『ビビッ!』と運命を感じたあの時に、私はきっと介護という最高のプレゼントをもらったんだなってよく思います。こんなステキなプレゼントをあげたんだから、頑張ってよね、と背中を押されているようで。だからここ『菜の花』で、多くの方と触れ合いながら、この先もずっと楽しく介護の仕事をし続けていきたいですね。

編集後記

「活気があって明るい職場。みんな喋ってばかり」と山田さんが紹介するように、初めて訪れた私にもその空気感が瞬時に伝わる、とにかく明るくて元気な職場でした。駅チカビルの2Fにオフィスがあり、ガラス張りからこぼれる光はとっても朗らかで、スタッフ皆さんの笑顔をより一層輝かせているようにも見えて、こちらまで温かい気持ちに。

山田さんは介護歴11年とベテランながら、フレッシュさも感じさせる魅力あふれる方です。山登りのエピソードに象徴されるように、介護という仕事ときっと運命的な出会いを果たしたのだろう…と感じられるエピソードの数々。目をキラキラしながら話してくださるお話はどれも興味深く、仕事への想いに溢れていたように思います。こうした想いある方達が介護業界で多く働いているという事実を知ることが、世間一般の目線としても、とても大事なことのように感じます。

今回、取材にご協力いただいた山田貴恵さんをはじめ、有限会社 菜の花 江戸川』の職員の皆さまには心からお礼を申し上げます。

「へるぱ!」運営委員会一同

事業所紹介

◆有限会社 菜の花 江戸川

〒133-0056
東京都江戸川区南小岩6-31-8 福島ビル2F

TEL.03-5622-0036
FAX.03-5622-0213

事業所紹介

山田 貴恵さん

有限会社 菜の花 江戸川
サービス提供責任者

勤務年数:11年/介護歴:11年

座右の銘

柳に雪折れなし

元々、頑固で人の言うことを素直に聞けない性格です。とはいえ、介護の仕事でこの性格のまま突き進めば、周りが見えなくなって自分が潰れる可能性もあります。そこで、ゆったり、穏やかな気持ちを持ちながら、人の輪を大事にして仕事をするよう心がけるようになりました。そんななか、ある時同僚から「山田ちゃんは柳だから」と言っていただく機会があり、しなやかに揺れる「柳」という表現をしていただいたことがとても嬉しくて「柳」という言葉がとても印象に残りました。その後、ある本に「柳に雪折れなし」という言葉を見つけて、『これは私にとって人生の永遠のテーマだ!』と感じたんです。硬い枝だと雪が積もると折れてしまうけれど、柳のようにしなやかに揺れて、臨機応変に対応できる、そんな自分であれたらいいな、と思います。

 

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