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第8回 働き方改革関連法案について②     2019/3/25

 今回のコラムでも、引き続き「働き方改革」関連法について触れてみたいと思います。今回は「年次有給休暇の強制取得」と「フレックスタイム制度」についてです。

 まず「年次有給休暇(以下、「年休」)の強制取得」についてです。
 政府は年休の取得率について70%という具体的数値目標を掲げていますが、取得率は改善されず、2016年の調査では年休取得率49.4%、またいわゆる正社員の約16%が年休を1日も取得していないという結果が出ました。オンライン旅行会社エクスペディアの国際比較調査(2017年)によれば、30か国中、日本の年休取得率は2年連続最下位だそうです。

 このような背景もあり、従業員の健康の確保、効率的に働く環境整備等を目的として、2019年4月から、すべての会社において、年10日以上の年休が付与される従業員(管理監督者を含む)に対して、年休日数のうち年5日については、使用者が時季を指定して取得させることになりました。
 これまで年休の時季指定は従業員の「権利」でしたが、これからは使用者に「時季指定させる義務」が生じることになります。

 時季指定の対象者となる可能性が高いのは、入社後6カ月が経過している正社員、フルタイムの契約社員、または週5日出勤のパート従業員、入社後3年6カ月以上経過している週4日出勤のパート従業員、入社後5年6カ月以上経過している週3日出勤のパート従業員です。
 年休を付与した日(基準日)から1年以内に、5日について、従業員ごとに使用者が取得時季を指定して与える必要がありますが、従業員がすでに5日以上取得している場合や、計画的付与により取得している日数が5日以上であれば、さらに強制的に5日を取得させる必要はありません。すでに取得している日数や計画的付与している日数は5日から差し引くことも可能です。

 また、法定基準日より前に10日以上の年休を付与する場合については、使用者は付与した日から1年以内に5日を指定して取得させなければなりません。
 なお、年休の半日単位による付与については、従業員がその取得を希望して時季を指定し、使用者が同意した場合であり、本来の取得方法による休暇取得の阻害とならない範囲で適切に運用される限りにおいて、問題がないものとして取り扱うこととしています。半日単位で0.5日とカウントします。

 今回の改正には、罰則規定が設けられるほか、使用者は時季指定にあたって、従業員の意見を聴取し、その意見を尊重するよう努め、従業員ごとに年休管理簿を作成し、3年間保存する義務もありますのでご注意下さい。

 次は、「フレックスタイム制度」についてです。
 子育てや介護、自己啓発など様々な生活上のニーズと仕事との調和を図りつつ、メリハリのある働き方を一層可能にするため、フレックスタイム制度が改正されます。
 フレックスタイム制により、一層柔軟でメリハリをつけた働き方が可能となるよう、清算期間の上限が、現行の1カ月から3カ月に延長されます。実務上の注意点として、現在フレックスタイム制に係る労使協定の労働基準監督署への届出は義務づけられていませんが、制度の適正な実施を担保する観点から、清算期間が1カ月を超え3カ月以内の場合に限り、労使協定の届出を要することとされます。

 清算期間が最長3カ月になるということは、割増賃金の支払いが3カ月に1回になることを意味します。ただし、対象労働者の過重労働防止等の観点から、清算期間内の1カ月ごとに1週平均50時間(完全週休2日制の場合で1日あたり2時間相当の時間外労働の水準)を超えた時間外労働時間については、当該月における割増賃金の支払い対象となります。
 また、フレックスタイム制度においても、60時間を超える時間外労働については、5割以上の割増賃金の対象となります。これは先ほど記載した週平均50時間を超えた場合の各月の時間外労働のほか、3カ月以内の清算期間を通じた清算を行う場合における時間外労働についても同様です。さらに、月当たり一定の労働時間(改正後は40時間を超える労働が80時間)を超える等の要件を満たす場合に医師による面接指導等の実施が必要になります。それらの点も踏まえ、長時間労働の抑制に努めることが求められます。

 完全週休2日制の事業場では、労使協定により、所定労働日数に8時間を乗じた時間数を法定労働時間の総枠にできるようになります。これについては、現行法でも通達(平成9.3.31基発第228号)において、月間所定労働時間を184時間まで容認する運用になっていますが、「労働日ごとの労働時間が概ね8時間であること」が課せられていること、通達そのものが知られていないこと等から実施される例が少なく、今回はこれを法制化することにより、清算期間中における所定労働時間の設定を柔軟にしようとするものです。

 フレックスタイム制は、適切に活用すれば、出退社の時間を柔軟にすることで、無駄な残業時間を削減し、生産効率を上げていく職場になりうる可能性のある制度です。7月や8月などの日中が長く、子供が夏休みの期間はワーク・ライフ・バランスの観点からも早めに仕事を終えて帰宅できるように、前後の月で調整するような働き方も好事例になるかもしれません。

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コラムニスト紹介

吉澤 努

よしざわ社労士・社会福祉士事務所、特定社会保険労務士

プロフィール

社会保険労務士として独立するまでに、介護老人保健施設、通所リハビリ、訪問介護、訪問看護、居宅介護支援事業所、地域包括支援センター等を経営する医療法人に約12年在籍し、法人全体の人事・労務管理に携わる。

平成26年に現事務所を開業。現場を直接見てきたという経験に、労働法・社会保険制度・助成金制度の専門家である社会保険労務士という法的な観点をミックスさせた「実践型介護特化社会保険労務士」として活動中。

<保有資格等>
特定社会保険労務士/社会福祉士/第1種衛生管理者/八王子市社会福祉審議会 高齢者福祉分科会委員/東京都介護労働安定センター 雇用管理アドバイザー/医療福祉接遇マナーインストラクター

著書・出版

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