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第7回 働き方改革関連法案について①     2019/1/7

 すでにご存知の読者の方も多いと思いますが、「働き方改革」関連法が2018年6月29日に参院本会議で可決、成立しました。
 この「働き方関連法」は、労働法制定以降70年ぶりの大改革と言われており、労働規制の強化と緩和に関わる労働基準法など8本の法律を束ねたものです。内容も多岐にわたり、かつ大変ボリュームがあるため、今回は「時間外労働の上限規制の導入」について触れてみたいと思います。

 今回の「働き方改革」関連法の改正前においては、1日8時間または1週40時間の法定労働時間を原則としつつ、36協定を締結することによって、法定労働時間を超える労働を可能としており、延長できる労働時間の法的な意味での上限時間はありませんでした。法定労働時間を超えて延長できる限度時間については、厚生労働省からの告示「労働基準法第36条第1項の協定で定める労働時間の延長の限度等に関する基準」により定められていましたが、それも法的な拘束力を持つものではありませんでした。
 また、36協定の内容として「限度時間を超えて労働時間を延長しなければならない特別の事情(臨時的なものに限る)」を協定(いわゆる「特別条項付36協定」)した場合は、最大6カ月を限度に、厚生労働省の定めた「労働基準法第36条第1項の協定で定める労働時間の延長の限度等に関する基準」を超えて労働させることが出来ることとなっていました。

 このような法的背景も影響してか、我が国では、長時間労働者の割合が欧米各国に比して多く、仕事と家庭の両立を困難にしているという課題が浮き彫りにされています。また、労働力人口の減少が叫ばれる中、平成25年の若年者雇用実態調査では、「労働時間・休日・休暇の条件がよい会社にかわりたい」と考える割合が2009年の37.1%から2013年は40.6%に上昇しています。長時間労働による過労死・過労自殺、精神疾患の発症も後を絶ちません。このような様々な課題を改善するために、今回の抜本的な改正に至りました。

 改正法においては、これまで法定時間を超える場合の限度時間自体に法的拘束力が無かったことに対し、法的上限として、1カ月45時間・1年360時間を明確に定めました。(1年単位の変形労働時間制の場合、1カ月45時間⇒42時間・1年360時間⇒320時間となります。)また、同じく上限が無かった「特別条項付36協定」を締結した場合についても、法定時間を超えて延長できる限度時間は

  1. ①1年720時間以内(休日労働は含まない)
  2. ②直前の2~6カ月の平均がいずれも80時間以内(休日労働を含む)
  3. ③単月では、100時間未満(休日労働を含む)

に改正されました。

 ちなみに、1日8時間または1週40時間の法的労働時間の原則、および36協定の締結によって法定労働時間を超える労働が適法と扱われる点については維持されています。

 改正後において、特別条項の制度自体は維持されたのですが、特別条項適用の要件が「限度時間を超えて労働時間を延長しなければならない特別の事情(臨時的なものに限る)」から「通常予見することができない業務量の大幅な増加等に伴い臨時的に限度時間を超えて労働させる必要がある場合」に変更されました。あえて、「通常予見することができない業務量の大幅な増加等」と付け加えていることをどう捉えるかですが、労基署の指導において、いままで「臨時性」という判断がルーズになされていたという反省のもと、厳しめの判断がなされる可能性もあるかもしれません。今後の厚生労働省の関係告示にも注目です。

 また、厚生労働省の定めた「労働基準法第36条第1項の協定で定める労働時間の延長の限度等に関する基準」が廃止され、代わって36協定指針が制定されました。基本的考えは次の通りです。

  1. ①労基法36条9項は、36協定締結指針に基づいて必要な助言や指導を行うことができるとしています。ただし中小企業については、36協定締結指針を完全に遵守することが難しいものとして、当分の間、中小企業における労働時間の動向、人材確保の状況、取引の実態等を踏まえて、助言指導するよう配慮する。
  2. ②労災認定に関する「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く)の認定基準」においては、1週間あたり40時間を超えて労働した時間が、1カ月において概ね45時間を超え、これを超えた時間が長くなるほど、脳・心臓疾患の発症等の関連性が徐々に強まると評価されていること、ならびに発症前1カ月間に概ね100時間、または発症前2カ月から6カ月間までにおいて、1カ月当たり概ね80時間を超える場合には、脳・心臓疾患の発症との関連性が強いと評価できるとされていることに留意すべき。

 としており、今回の労働時間の限度時間の具体的数字が労働者の健康管理(労災防止)等の観点から定められていることが明らかにされています。

 このような労災基準によって示された観点から、36協定指針においては、仮に労働時間の上限規制を適法に運用していた場合でも安全配慮義務を負うとしており、労働時間の上限規制を遵守していたとしても会社側の安全配慮義務が免責されるわけではないことが明らかにされています。

 以上、今回は「時間外労働の上限規制の導入」について述べさせていただきましたが、今回の改正により、労働者の健康が確保され、仕事とプライベートの両立が図られ、労働者がより安定した職業生活を送ることにより、企業収益が向上するといった好循環を生み出すことにつながること願いたいと思います。

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コラムニスト紹介

吉澤 努

よしざわ社労士・社会福祉士事務所、特定社会保険労務士

プロフィール

社会保険労務士として独立するまでに、介護老人保健施設、通所リハビリ、訪問介護、訪問看護、居宅介護支援事業所、地域包括支援センター等を経営する医療法人に約12年在籍し、法人全体の人事・労務管理に携わる。

平成26年に現事務所を開業。現場を直接見てきたという経験に、労働法・社会保険制度・助成金制度の専門家である社会保険労務士という法的な観点をミックスさせた「実践型介護特化社会保険労務士」として活動中。

<保有資格等>
特定社会保険労務士/社会福祉士/第1種衛生管理者/八王子市社会福祉審議会 高齢者福祉分科会委員/東京都介護労働安定センター 雇用管理アドバイザー/医療福祉接遇マナーインストラクター

著書・出版

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