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第5回 介護事業所を成長へ導く研修計画の立て方       2018/8/3

 今回のコラムでは、職員の研修について考えてみたいと思います。このコラムをご覧の介護経営者の皆様にとりましても、職員の研修をどのように進めていくべきかお悩みの方もいらっしゃるのではないでしょうか。また、職員研修は行っているものの、なんとなく漠然と行かせているだけで、事業所として研修についての考え方が定まっていないとお考えの介護経営者もいらっしゃると思います。

 訪問介護事業所における特定事業所加算の算定要件にも、「すべての訪問介護員等に対し、個別の訪問介護員等に係る研修計画を作成し、当該計画に従い研修を実施又は実施を予定していること。」が求められております。
 これらの点を踏まえて、介護事業所が「研修計画を作る上でのヒント」になれば、という思いでお伝えさせていただきます。

 介護事業所側の経営理念、もしくはキャリアパスに基づく「求める職員像」、「なってほしい職員像」と職員個人が考える「なりたい職員像」が近い職場ほど、職員教育に対する風土が整っており、健全な成長を描く職場であるということは間違いないと思います。
 そして、「求める職員像」に近づくために、事業所側が求める能力と今現在、職員が持っている能力との差が介護事業所としての「研修ニーズ」になるということは最低限抑えていただきたいポイントです。

 求められる能力(A)-持っている能力(B)=「研修ニーズ」(C)

 これを踏まえた上で、年間研修計画を設定してまいります。

<年間研修計画の設定>
  1. ①「求める職員像」に照らして、職員研修の目的を再確認します。 単年度の課題だけでなく、中長期的な視点に立ち系統的、 継続的に取り組むべきことも必要です。
  2. ② 今年度の研修課題・ニーズ分析を行います。 前年度の評価を踏まえて、「前年度から継続する課題」・「前年度の反省に基づき改善する課題」を明確にし、今年度の研修ニーズを把握します。
    ※ 組織の活性化や利用者サービスの向上、法人の収益向上につながっているか、という点でも再検討して下さい。
  3. ③ ①②を踏まえ、今年度の研修の重点テーマを明らかにします。
  4. ④ ③の重点テーマに基づいた研修を行うために、誰が、 いつ、どこで、取り組むかを明らかにします。
  5. ⑤ 研修を受講した職員が、他の職員にフィードバックする仕組みも整えましょう。
  6. ⑥ 全ての研修施策(具体的なメニュー)をリストアップし、 スケジュールを決めていきます。 ⇒年間の研修内容の大枠とスケジュールを明確にし、予算に対して必要な経費も検討してみましょう。

 では、具体的にどのような研修メニューを取り入れていくことが良いのでしょうか。当然ながら、まずは事業所としての研修ニーズを整理することが最優先ですが、このような考え方も参考にしてみて下さい。

 介護サービス情報公表制度における「調査情報」において、「研修の実施記録」が問われる研修としては、

  1. ①「認知症及び認知症ケアに関する研修」
  2. ②「プライバシーの保護の取り組みに関する研修」
  3. ③「接遇に関する研修」
  4. ④「倫理及び法令遵守に関する研修」
  5. ⑤「事故発生又は再発防止に関する研修」
  6. ⑥「緊急時の対応に関する研修」
  7. ⑦「感染症・食中毒の予防及び蔓延防止に関する研修」

などが挙げられております。

 「介護職員処遇改善加算」算定時に提出する「キャリアパス要件等届出書」の職場環境等要件でも、「資質の向上」のための研修として、「介護職員実務者研修」「喀痰吸引研修」「認知症ケア研修」「サービス提供責任者研修」「中堅職員に対するマネジメント研修」などが求められております。

 また、東京都では「代替職員の確保による現任介護職員等の研修支援事業」も行っております。
 これは、都内の介護保険サービスその他の福祉サービス事業所等(以下「事業所」という。)が、当該事業所に従事する介護職員等(以下、「現任介護職員」という。)の資質向上を図るため研修等を受講させる場合に、福祉・介護関係の仕事に関心のある者を「介護補助員」として雇用し、現任介護職員の代替職員として事業所に派遣する事業です。

 派遣に係る経費(代替職員の人件費)は都が負担しますので、派遣先の事業所の経費負担は発生しません。

研修投資効果を最大化させる方法

 ドイツの心理学者、ヘルマン・エビングハウス氏が提唱した概念「エビングハウスの忘却曲線」をご存知でしょうか。彼は、意味のない3つのアルファベットの羅列(られつ)を被験者にたくさん覚えさせ、その記憶がどれくらいのスピードで忘れられていくかを実験することで、忘却のスピードを測定しました。結果は次の通りです。

  1. 【1】人間は20分後に覚えた事の42%を忘れる。
  2. 【2】1時間後に56%を忘れる。
  3. 【3】1日後に74%を忘れる。
  4. 【4】1週間後に77%を忘れる。
  5. 【5】1ケ月後79%を忘れる。

 いかがでしょうか。このようなデータがなくても、人間とは、そもそも物事を“忘れる”ように出来ている、という感覚は読者のみなさんもお持ちかもしれません。

 「忘却」への最大の対抗策は、「復習」です。
 非常に地道な作業になりますが、人間の「忘却」に対抗するには、やはり「復習」が大切なようです。まさに「学問に王道なし」ですね。
 最も効果的な「復習」は、人が忘れるタイミングで繰り返し記憶を呼び起こすことで、記憶効果を定着させることだそうです。

 介護業界は特に研修熱心な経営者が多いと感じています。「研修投資効果を最大化させたい」と思う経営者の皆様は、この「エビングハウスの忘却曲線」のデータを参考に、再度、自事業所の研修のあり方を見直してみては如何でしょうか。
 面倒かもしれませんが、翌日、1週間後、1ヶ月後、適切なタイミングで是非「復習」の機会を設けていただければと思います。

 「へるぱ!」のホームページにも最新のセミナー情報が次々にアップされております。是非参考にしていただき、個人の資質を高めつつ、事業所全体のレベルアップにつながる研修受講をしていただきたいと思います。

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コラムニスト紹介

吉澤 努

よしざわ社労士・社会福祉士事務所、特定社会保険労務士

プロフィール

社会保険労務士として独立するまでに、介護老人保健施設、通所リハビリ、訪問介護、訪問看護、居宅介護支援事業所、地域包括支援センター等を経営する医療法人に約12年在籍し、法人全体の人事・労務管理に携わる。

平成26年に現事務所を開業。現場を直接見てきたという経験に、労働法・社会保険制度・助成金制度の専門家である社会保険労務士という法的な観点をミックスさせた「実践型介護特化社会保険労務士」として活動中。

<保有資格等>
特定社会保険労務士/社会福祉士/第1種衛生管理者/八王子市社会福祉審議会 高齢者福祉分科会委員/東京都介護労働安定センター 雇用管理アドバイザー/医療福祉接遇マナーインストラクター

著書・出版

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