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第4回 非常勤職員の健康診断を戦略的に考えてみる       2018/5/10

今回は、訪問介護員の健康診断について考えてみたいと思います。

訪問介護事業所にとって訪問介護員の皆様は、まさに事業所運営のエンジンであり、彼らなくしては訪問介護事業所として存在すら許されません。したがいまして、訪問介護員の皆様の健康管理は事業所としてとても大切だと思います。


この健康管理の第一歩といえるのが、健康診断ではないでしょうか。

今さら言うまでもないと思いますが、健康診断の定義を一応確認してみましょう。

健康診断とは、
「一見健康そうな人々を対象として、医師および歯科医師が心身の状態、機能を検査し、そこから無自覚の疾病あるいは欠陥をもっている者を識別して、適切な事後処置により健康の保持、増進をはかるために行われる医学的方法のこと」(ブリタニカ国際大百科事典より)


また、定期健康診断の具体的な診断項目については、労働安全衛生法第66条安衛則第44条で以下のように定められています。(※)については、それぞれの基準に基づき、医師が必要でないと認めるときは省略することができます。


  1. 1 既往歴及び業務歴の調査
  2. 2 自覚症状及び他覚症状の有無の検査
  3. 3 身長(※)、体重、腹囲(※)、視力及び聴力の検査
  4. 4 胸部エックス線検査(※) 及び喀痰検査(※)
  5. 5 血圧の測定
  6. 6 貧血検査(血色素量及び赤血球数)(※)
  7. 7 肝機能検査(GOT、GPT、γ―GTP)(※)
  8. 8 血中脂質検査(LDLコレステロール、HDLコレステロー ル、血清トリグリセライド)(※)
  9. 9 血糖検査(※)
  10. 10 尿検査(尿中の糖及び蛋白の有無の検査)
  11. 11 心電図検査(※)

この労働安全衛生法第66条安衛則第44条を確認すると、定期健康診断の対象者は「常時使用する労働者」に対し、となっています。この「常時使用する労働者」とは、平成19年10月1日基発第1001016号通達で、次の(1)と(2)のいずれの要件をも満たす場合として示されています

  1. (1) 期間の定めのない契約により使用される者であること。なお、期間の定めのある契約により使用される者の場合は、1年以上使用されることが予定されている者、及び更新により1年以上使用されている者。
  2. (2) その者の1週間の労働時間数が当該事業場において、同種の業務に従事する通常の労働者の1週間の所定労働時間数の4分3以上であること。

現在の多くの訪問介護事業所では、この通達の要件を満たさない有期契約労働者等の非常勤職員(登録ヘルパー等)も多数いらっしゃるのではないでしょうか。

この要件を満たさない有期契約労働者等の非常勤職員の訪問介護員に対して、「法定外だから健康診断を行わない」と判断するのは確かに簡単ですが、「もう少し戦略的に考えてみる」という方法もあるかもしれません。


確かに健康診断受診費用はかかるかもしれませんが、非常勤職員の訪問介護員も重要な戦力・大切なパートナーだとお考えならば、重要な戦力を病気で失うのは事業所にとって大きな損失です。「未然に予防や早期発見をしていれば」、と後悔なさるのなら、例え法定外であっても健康診断を受診させるべき、という考え方もあってしかるべきだと思います。損して得取れ的な発想です。


その上で、訪問介護事業所において、特定事業所加算の体制要件の中に、「すべての訪問介護員等(登録型の訪問介護員等を含む。)に対し、定期的に健康診断を事業主の費用負担により実施すること。」とあるので、非常勤職員のすべての訪問介護員に健康診断を受診させるのであれば、特定事業所加算取得も目指されてはいかがでしょうか。

(特定事業所加算取得に関しては、他にも要件があるのでご注意ください)


また、キャリアアップ助成金の健康診断制度コースでは、有期契約労働者等を対象とする「法定外の健康診断制度」を新たに規定し、 延べ4人以上実施した場合に38万円(生産性の向上が認められた場合48万円)が支給されます。「法定外の健康診断制度」とは「常時使用する労働者」以外の労働者に健康診断を行った場合も該当します。(他の受給要件もあるので、受給できない可能性もあります)


では、健康診断受診時の費用負担や賃金は法的解釈として、どのように考えるのでしょうか。

(都道府県労働基準局長あて労働省労働基準局長通達・昭和47年9月18日基発第602号)では、次のように規定されています。

  1. イ 健康診断の費用については、法で事業者に健康診断の実施の義務を課している以上、当然、事業者が負担すべきものであること。
  2. ロ 健康診断の受診に要した時間についての賃金の支払いについては、労働者一般に対して行なわれる、いわゆる一般健康診断は、一般的な健康の確保をはかることを目的として事業者にその実施義務を課したものであり、業務遂行との関連において行なわれるものではないので、その受診のために要した時間については、当然には事業者の負担すべきものではなく、労使協議して定めるべきものであるが、労働者の健康の確保は、事業の円滑な運営の不可決な条件であることを考えると、その受診に要した時間の賃金を事業者が支払うことが望ましいこと。

その他の注意点としては、

なども気を付けなければならないポイントです。


いかがでしょうか。今回のコラムをきっかけに従業員の健康診断について、一度事業所内で掘り下げてみてもよいかもしれませんね。

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コラムニスト紹介

吉澤 努

よしざわ社労士・社会福祉士事務所、特定社会保険労務士

プロフィール

社会保険労務士として独立するまでに、介護老人保健施設、通所リハビリ、訪問介護、訪問看護、居宅介護支援事業所、地域包括支援センター等を経営する医療法人に約12年在籍し、法人全体の人事・労務管理に携わる。

平成26年に現事務所を開業。現場を直接見てきたという経験に、労働法・社会保険制度・助成金制度の専門家である社会保険労務士という法的な観点をミックスさせた「実践型介護特化社会保険労務士」として活動中。

<保有資格等>
特定社会保険労務士/社会福祉士/第1種衛生管理者/八王子市社会福祉審議会 高齢者福祉分科会委員/東京都介護労働安定センター 雇用管理アドバイザー/医療福祉接遇マナーインストラクター

著書・出版

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