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第3回 訪問介護事業所における労務管理の基本       2018/2/16

今回のコラムでは、「訪問介護労働者の法定労働条件の確保について」から労務管理の基本であり大切なポイントについてのおさらいをしていきたいと思います。

訪問介護事業においては、

  • ・通常、同事業に使用される労働者の多くが、単独で利用者宅を訪問し介護に従事するため、使用者が労働者を直接に指揮し、その勤務状況を把握する機会が限られるなどの勤務実態があること
  • ・事業開始後間もない事業者も多く、労働基準法等関係法令に関する理解が必ずしも十分ではない場合もあること
    などの理由で賃金、労働時間等に係る法定労働条件が適正に確保されていない状況がみられるようです。

このような状況を踏まえ、訪問介護労働者に係る労働基準法等関係法令の適用について、厚生労働省が「訪問介護労働者の法定労働条件の確保について」を取りまとめました。

では、「訪問介護労働者の法定労働条件の確保について」の具体的な内容について確認していきましょう。

①「休業手当は明確に支払われていますか?」

労働基準法上、使用者の責に帰すべき事由により、労働者を休業させた場合には、使用者は休業手当として平均賃金の 100分の60以上の手当を支払わなければなりません。

利用者からのキャンセル、利用時間帯の変更を理由として労働者を休業させる場合には、他の利用者宅での勤務等、その労働者に代替業務を行わせる可能性等を含めて判断し、「使用者として行うべき最善の努力を尽くした」と認められない場合には、休業手当の支払が必要です。

介護コラム

「マズい!」と感じている事業者はいらっしゃいますでしょうか。

「使用者として行うべき最善の努力を尽くした」ケースとは・・・。

利用者からの利用申込みの撤回や利用時間帯の変更要請により、使用者が当該労働者に対し他の利用者宅で勤務させる等代替業務の提供を行った場合、あるいは、就業規則の規定に基づく始業・終業時刻の繰上げ・繰下げによる勤務時間帯の変更や、休日の振替による労働日の変更を行い、他の利用者宅で勤務させる等必要な業務の提供を行った場合には、休業手当の支払は必要ないとされております。

②「移動時間等が労働時間に当たる場合には、これを労働時間として適正に把握しましょう」

移動時間とは、事業場、集合場所、利用者宅の相互間を移動する時間をいい、この移動時間については、使用者が業務に従事するために必要な移動を命じ、当該時間の自由利用が労働者に保障されていないと認められる場合には、労働時間に該当します。 なお、通勤時間はここでいう移動時間に該当しません。

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具体的には、指揮監督の実態により判断するものであり、 例えば②又は③の移動時間であって、その時間が通常の移動に要する時間程度である場合には、労働時間に該当するものと考えられます。

いかがでしょうか。通勤時間に該当するか、移動時間に該当するか、なかなか判断が難しいところです。これは労働時間管理の問題だけでなく、通勤手当(賃金)で対応するか、旅費交通費(経費精算)で対応するか、経理上も処理が変わってきそうですね。顧問先の税理士さんともご相談された方がよいかもしれません。

その他の労働時間に該当するもの
「業務報告書等の作成時間」

業務報告書等を作成する時間については、その作成が介護保険制度や業務規定等により業務上義務付けられているものであって、使用者の指揮監督に基づき、事業場や利用者宅等において作成している場合には、労働時間に該当すると判断されます。

「待機時間」

待機時間については、使用者が急な需要等に対応するため事業場等において待機を命じ、当該時間の自由利用が労働者に保障されていないと認められる場合には、労働時間に該当すると判断されます。

「研修時間」

研修時間については、使用者の明示的な指示に基づいて行われる場合は、労働時間であること。また、研修を受講しないことに対する就業規則上の制裁等の不利益な取扱いがある場合や、研修内容と業務との関連性が強く、それに参加しないことにより、本人の業務に具体的に支障が生ずるなど実質的に使用者から出席の強制があると認められる場合などは、たとえ使用者の明示的な指示がなくとも労働時間に該当すると判断されます。

では、訪問介護の業務に従事した時間に対して支払う賃金額と、移動時間など上記の「その他の労働時間に該当するもの」に対して支払う賃金額は、異なってもよいのでしょうか。

これについては、訪問介護の業務に直接従事する時間と、それ以外の業務に従事する時間の賃金水準については、最低賃金額を下回らない範囲であれば、労使の話し合いによって決定することは差し支えないとされております。

以上、ご注意の上、ご対応いただければと存じます。

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コラムニスト紹介

吉澤 努

よしざわ社労士・社会福祉士事務所、特定社会保険労務士

プロフィール

社会保険労務士として独立するまでに、介護老人保健施設、通所リハビリ、訪問介護、訪問看護、居宅介護支援事業所、地域包括支援センター等を経営する医療法人に約12年在籍し、法人全体の人事・労務管理に携わる。

平成26年に現事務所を開業。現場を直接見てきたという経験に、労働法・社会保険制度・助成金制度の専門家である社会保険労務士という法的な観点をミックスさせた「実践型介護特化社会保険労務士」として活動中。

<保有資格等>
特定社会保険労務士/社会福祉士/第1種衛生管理者/八王子市社会福祉審議会 高齢者福祉分科会委員/東京都介護労働安定センター 雇用管理アドバイザー/医療福祉接遇マナーインストラクター

著書・出版

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