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働きやすい介護事業所をめざして!

第1回 介護給付費分科会における介護人材確保対策①       2017/10/30

今回より「働きやすい介護事業所をめざして!」のコラムを担当させていただきます社会保険労務士の吉澤努と申します。

ご紹介文にあるように、私は社会保険労務士として独立開業する前に介護老人保健施設や訪問介護、訪問看護、通所リハビリテーション、居宅介護支援事業所、地域包括支援センターなどを運営する医療法人に約12年勤務し、様々な人事・労務管理や介護保険法に関する手続業務、行政対応等を行い、独立開業後も顧問先介護事業所の人事・労務管理に関する多くの案件に関わらせていただきました。今回から開始させていただくコラムでは私のこれまでの経験や社会保険労務士としての法的知識を活用し、訪問介護事業所の経営者の皆様に少しでも有用になるような、人材確保、労務管理、人材定着など介護事業所の「人事・労働全般」に関する幅広いテーマで発信させていただければと考えております。よろしくお願いいたします。

初回は国が考えている「介護人材確保対策」について考えてみたいと思います。

現在、平成30年4月の介護報酬改定に向けて介護給付費分科会が開催されております。平成29年4月末に本格始動した本会は5~8月までに計9回開催され、サービスごとの課題や検討すべき論点を整理する「第1ラウンド」が終了しました。8月に開催された会では「人材確保対策」について論じられました。

今回の論点は以下の通りです。

【論点】

  • 〇 介護人材の安定的な確保のため、総合的な取組が進められている中、介護職員処遇改善加算のあり方について、どのように考えるか。
    • ・特に、介護職員処遇改善加算(Ⅳ)及び(Ⅴ)については、要件の一部を満たさない事業者に対し、減算された単位数での加算の取得を認める区分であるが、当該区分の取得率や報酬体系の簡素化の観点を踏まえ、そのあり方についてどのように考えるか。
    • ・また、対象費用や対象職員の範囲を含む介護職員処遇改善加算のあり方については、平成29年度介護報酬改定に関する審議報告を踏まえ、介護従事者処遇状況等調査により、月額1万円相当の処遇改善による実際の賃金改善効果を適切に把握した上で、引き続き検討していくこととしてはどうか。
  • 〇 介護ロボットについて、その活用による評価をどのように考えるか。

「介護職員処遇改善加算の請求状況」

介護コラム

※厚生労働省「介護給付費等実態調査」の平成27年4月~平成29年5月審査分の特別集計により算出

この表は介護給付費分科会でも参考資料として、提示されたものです。この表も一つの参考にしながら「介護職員処遇改善加算」の在り方について様々な意見が論じられました。

私の感想としては、概ね次のような内容が議論されたのではないかと思います。

まず、このまま「介護職員処遇改善加算」を続けていくべきか。これについてはまず、ニッポン一億総活躍プランにおいて、「介護人材の処遇については、競合他産業との賃金差がなくなるよう、平成29年度からキャリアアップの仕組みを構築し、月額平均1万円相当の処遇改善を行う。この際、介護保険制度の下で対応することを基本に、予算編成過程で検討する」という具体的な施策が閣議決定されております。

ニッポン一億総活躍プラン(平成28.6.2閣議決定)

【国民生活における課題】

人材確保が困難な理由の一つとして、介護人材の賃金が他の対人サービス産業と比較し賃金が低いことが考えられる。また勤続年数も短くなっている。

この閣議決定を踏まえたうえでも、「処遇改善加算(Ⅰ)(Ⅱ)を取得している事業者は約8割に達したという実態を踏まえ、基本報酬に組み込んでもよいのではないか」「処遇改善については、本来、労使間において自律的に対応されるべきで、特定の業種の処遇改善に介護保険料を充てるということは、他業種の2号被保険者や事業主から理解が得られないのでないか」「平成21年度から今年度の9年間にわたって、合計5万3000円相当の改善を図ってきたという経緯からも、介護職員処遇改善加算は廃止していただきたいと思いますし、さらに処遇改善の必要性があると指摘するなら、税で対応するのが筋ではないか」などの意見もありました。これに対し、「そのように理想的にやって、介護職がいなくなって、いろいろな施設が運営できなくなったらどうするのですか。現実に立ち返っていくと、これだけたくさんの処遇改善をしても、なお足らない」「加算ではないやり方をすればいいのかというお話もありましたけれども、赤字事業所では加算があったからこそ、給料にそのまま乗せて払うことができ、人材流出を防げたという話も経営者側から聞いております」など賛否両論が飛び交いました。

私の感想としては、まだまだ介護人材の不足感は否めない。基本報酬に組み込むのは時期尚早なのでは、と感じております。最低でもニッポン一億総活躍プランの閣議決定通り、他産業との賃金差解消までは着実に進めるべきだと思います。その上で、介護業界の人材確保がどのようになっているのか、また処遇改善加算に対する財源も含めて議論し直してもよいのではないかと思います。また、ニッポン一億総活躍プランにおいても、2021年度から2023年度の3年間、あるいは2024年度から2026年度の3年間については「介護報酬の改定等に合わせて必要に応じて処遇を改善」との微妙な記載があります。あとは他産業との賃金差が解消されたというエビデンスが示された場合や介護業界における人材不足感との関係で処遇改善加算の継続が決まってくるのではないかと思います。

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コラムニスト紹介

吉澤 努

よしざわ社労士・社会福祉士事務所、特定社会保険労務士

プロフィール

社会保険労務士として独立するまでに、介護老人保健施設、通所リハビリ、訪問介護、訪問看護、居宅介護支援事業所、地域包括支援センター等を経営する医療法人に約12年在籍し、法人全体の人事・労務管理に携わる。

平成26年に現事務所を開業。現場を直接見てきたという経験に、労働法・社会保険制度・助成金制度の専門家である社会保険労務士という法的な観点をミックスさせた「実践型介護特化社会保険労務士」として活動中。

<保有資格等>
特定社会保険労務士/社会福祉士/第1種衛生管理者/八王子市社会福祉審議会 高齢者福祉分科会委員/東京都介護労働安定センター 雇用管理アドバイザー/医療福祉接遇マナーインストラクター

著書・出版

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