へるぱ!

今なら語れる「障害を越えて」

第20回 にんじんを前にして走れ

 「人参をぶら下げる」という言い回しがあります。馬に乗ったはいいが、一歩も歩かない馬に、乗ったまま棒の先に結んだ人参を馬の鼻先にちらつかせます。すると好物の人参を食べたいがために前へ前へと進む、という希望を与える馬術方法の例えです。

 私は視覚障害者になって、外出できないと決めつけていました。希望といえば年間6回発売されるジャンボ宝くじを買い求めるくらい。もしかしたら億万長者になれるかも、と夢見る気持ち。抽選日までに誰もが抱くような宝くじ当選の夢が、私の希望でもありました。毎回夢破れても取りあえずはそれで満足だったのです。

 しかし、前回のコラムでご紹介した通り、今回、自分自身に目標を立て、健康と自分に喝を入れることにしました。まずは日帰りや一泊でのバス旅行に家内の介護で出かけることからと考えました。以前は、好きだった旅行もダメだと思っていましたが、その他に希望を持たせるものはないかと自分なりに調べて、見つけたものが「船旅クルージング」でした。

 これまでも船旅をした先輩達の話しは聞いていました。船旅はバス旅行と違い、最低でも10日間と長く、一年前から計画・予約するので、出発までの時間が夢と希望にあふれていると説明を受けていたのです。

 早速、考えているより即実行の家内が船旅ツアーを探してくれました。日本1周の旅で来年の5月出航です。横浜、函館、秋田、金沢、韓国・釜山、長崎、徳島と寄港し、各港から観光バスで名所を巡り、最後はまた横浜港に戻るスケジュールです。

 これまでは短期間での楽しみ方を模索してきましたが、今回の長期計画は、自分に夢と希望を与えてくれたのです。申込みをした今、来年5月までの健康管理に一層力が入ります。パンフレットを何度も読み返す自分は、まるで人参を前にした馬のよう。鼻先に近づく来年5月までの期間を楽しみに待つ今までになかった自分に出会い、目の前のことではなく、少し先に希望を定めて計画・行動をすることの良さ、またそこに向けて健康管理ができるなんて、なかなかいいものだと思います。

 「船旅の次は何をしよう」と、失いかけた夢と希望を引き続き探し求めることも鼻先の人参かもしれません。皆さんも夢と希望を失いかけたら、長期先の目標をたててみてください。

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コラムニスト紹介

山田 猛

ガイドヘルパー(視覚障害者)

プロフィール

1941年 中国・元満州国安東省生まれの引揚者。

1969年 立正大学経済学部を卒業後、運輸会社へ入社。航空貨物部門で海外宅配便と新規事業開発で書類宅配便クーリエサービス業務の立上げの責任者となる。のち、ISO品質管理室長として全国支店を飛び回り指導に励む。また会社品質向上を担当。

2000年9月 定年半年前に角膜移植手術を受けるが、移植に失敗。強度の視力障害を持つ中途失明者となる。
定年後、第二の人生設計を立てていたところに抱えた大きな障害。生きる希望をも見出せず失望の淵に立たされた時期を乗り越え、現在、同じ境遇の人たちを救うため介護福祉について勉強中。

介護を受ける立場にかかわり、介護をされる皆様に何を求め、また考えているかを視覚障害の症状、環境変化がありすべての方の問題とか解決策とはなりませんことをご理解頂き、あくまでも私個人として利用者が感じた点を記述してみたいと思います。

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