へるぱ!

今なら語れる「障害を越えて」

第18回 国民宿舎のホテル

私は視覚障害になる前、通運会社に勤務していました。入社当初の数年間は支店の仕事を理解するために地方へ配属。先日、その時勤務していた岡山支店のOB会よりお誘いをいただき、当時の仕事仲間が集まる会に出席してきました。岡山で3年間、鉄道(現在のJR)貨物扱、トラック貨物扱、船の貨物扱、航空貨物扱など、大手通運会社としての業務を一通り教えていただいた先輩達との集まりです。ちなみに私の出身も岡山です。

岡山勤務を終え、東京に転勤後、好景気の追い風もあってか念願であった本島・岡山から四国・香川への吊大橋「本四橋」の工事が実現したと聞きました。吊大橋が完成した際、高速道路を走るトラックと鉄道を走る列車の同時運行する場合において、吊大橋の揺れがどれぐらいかを測定するテストが行われました。そのテスト運行者に選ばれたのが、私の先輩である「鬼指導者」と呼ばれた人です。

その先輩にとっては、「本四橋の第1号運転手であること」が今でも自慢の1つだそうですが、私にとっては当時の先輩の恐ろしさの方が印象に残っています。本人自らも「鬼も怖がる桃太郎さん」と呼ばれていたことを自慢のネタにするほど。やはり納得の鬼指導者だったのだと再確認しました。

集まりの翌日、義弟と岡山駅前にある桃太郎銅像前で待合わせをして、家内の出生地である備中高梁に義父母のお墓参りへ行ってきました。交通渋滞で予定より時間がかかり、一泊することに。義弟がスマホでホテル検索をして国民宿舎に宿泊。ホテルには温泉施設があり、とてもラッキーでした。というのも、自宅を障害者用に改造した際、お風呂場は浴槽のない「馬蹄型のシャワー」を採用しており、それ以来ゆっくりと湯船に浸かることもなく、肩まで浸かれる湯船に入りたいと常々思っていたからです。

家内とはよくバス旅行をします。本音を言うならば、宿にある大浴場に入るため、視覚障害者である私の付添えとして家内にも一緒に入ってもらいたいところです。ですが、男女別々の大浴場ではそうもいきません。そのため、私は部屋に付いた小さい湯船でいつも我慢をしてきました。やはり人間、ゆっくり肩まで浸かり、頭に手拭いをのせたいものです。湯船に浸かりたい私の想いというのは、時々ニュースに登場する温泉を楽しむお猿さんをも羨むほどだったので…。

今回は義弟と二人で2度も入浴をして、満足できる温泉宿泊となりました。温泉浴場内には手すりがあり、洗い場もシャワーや石鹸・シャンプーなど安全な配置で、その気配りにも感心しました。またホテル内の廊下も広く、各部屋と浴室との段差もありません。車椅子にも優しい配慮でこちらも感心しました。

翌日フロントで「身体障害者手帳をお持ちでしたら、ご本人と介護者のお二人に割引を適用できます」と説明いただきました。通常、支払い時にこちらから説明を求めない限り、割引のことは教えてくれません。従業員教育の行き届いたホテルであると感激しました。バリアフリー化されているホテルに宿泊した際は、何か特典がないかを聞いてみるとよいですよ。

義弟と別れ、岡山駅から一人、いつもの新幹線に乗車して帰りました。東京駅で降り、そこから取手駅までは、乗換えをする駅ごとに介護の取付け連絡をしてもらい、各駅了解を得ていたので、駅員の皆様の同行介護を受けながら、無事帰宅することができました。

ただ1つ残念だったのは、取手駅から私の自宅の最寄り駅まで乗った路線です。その路線は2015年10月30日に運転手の安全確認不足で白い杖がドアに挟まったまま発車し、私が左腕を骨折する事故があって以来の利用でした。しかし、当時、鉄道会社の責任者から「駅従業員への安全確認意識の徹底と実行改善」を約束した謝罪回答をいただいていたにも関わらず、前回同様、今回も駅員の方の同行援護はありませんでした。

やはり都心と違い、駅員の数も少ないため全てを対処することは難しいようです。とはいえ、せめて、ワンマン列車の運転手には視覚障害者が乗車していることや下車駅の情報を共有し、下車する駅に到着したら少し時間がかかっても無事に下車したかの安全確認を徹底して行っていただきたいものです。お願い致します。

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コラムニスト紹介

山田 猛

ガイドヘルパー(視覚障害者)

プロフィール

1941年 中国・元満州国安東省生まれの引揚者。

1969年 立正大学経済学部を卒業後、運輸会社へ入社。航空貨物部門で海外宅配便と新規事業開発で書類宅配便クーリエサービス業務の立上げの責任者となる。のち、ISO品質管理室長として全国支店を飛び回り指導に励む。また会社品質向上を担当。

2000年9月 定年半年前に角膜移植手術を受けるが、移植に失敗。強度の視力障害を持つ中途失明者となる。
定年後、第二の人生設計を立てていたところに抱えた大きな障害。生きる希望をも見出せず失望の淵に立たされた時期を乗り越え、現在、同じ境遇の人たちを救うため介護福祉について勉強中。

介護を受ける立場にかかわり、介護をされる皆様に何を求め、また考えているかを視覚障害の症状、環境変化がありすべての方の問題とか解決策とはなりませんことをご理解頂き、あくまでも私個人として利用者が感じた点を記述してみたいと思います。

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