へるぱ!

今なら語れる「障害を越えて」

第12回 マニキュア

同行擁護従業者養成研修(以前は視覚障害者ガイドヘルパー)で、視覚障害者本人である私が経験者としてお話しをさせていただいて10年が経過しました。中途視覚障害者としての経験談と、視覚障害者の立場からどんな介護を求めているかを中心に、私なりに思ったことをお話しさせていただいています。

当初は一方的に私が話しをする研修内容でしたが、回を重ねるごとに問題点について質疑応答が増え、受講生の皆様に真剣に耳を傾けていただいていることを実感すると同時に、一方通行ではない、充実した研修内容になっていると感じています。

研修をする際、参考にできる事例を見つけると、次回の研修が待ち遠しくなり、まだ完全とは言えませんが、この10年で人前に立って話しをすることに余裕が持てるまでに成長しました。受講生の皆様には感謝しています。

受講生の大半が介護事業所に勤めている方々です。障害者への介護知識は私よりもはるかに多く、私が体験談を話す一方で、参考になる事例を皆様から教えていただくこともしばしばです。最近私がとても感激した参考事例があるのでご紹介します。

それは先日の研修内でのことです。私は普段、指に白いテープを巻いているのですが、「なぜ指先にテーピングをしているのでしょう?」と受講生に訪ねたところ、「怪我をしているから」という回答がほとんどでした。でも答えは違います。『自分の指先の位置を知るための目印』が正解です。どういう意味かと言うと、視覚障害者であり弱視の人は「音や目印」で物を判断するケースが多く、音で聞き分けるため、持ち物に「すず」を取りつけているのもその一例です。指に白いテープを巻いているのは、物を取る時、どこに自分の手や指先があるのか弱視だと判断できないため、指先の位置がわかりやすいよう巻いているのです。ただこのアイデアにはやや難あり、指に巻いたテープが汚れやすいので、一日に数回取り替える必要があります、とお話ししました。

ところが研修が終わって皆様を会場から見送る際、受講生の1人から「テ-プの代わりにマニキュアを利用したらよいのでは?」とのアドバイスをいただきました。さらに後日、親切にもマニキュアの使用方法をファックスでいただいたのです。

私の勝手な固定観念として、マニキュアは女性が使用するもので、色は赤、青、紫など。まさか「白」があるとは知りませんでした。早速実行したところ、取り替える必要もなし、不衛生から開放され、終日快適な日々に「感謝、感謝」です。

こんな風に、10年間かけて皆様から新たにいただいた情報はどれも一つ一つ感激するものばかりです。最近の世の中は回転が早く、次々と便利な新商品が登場しています。しかし、視覚障害者になってからは、便利なものを見つけ出すことはほぼ皆無です。視覚障害者が同行援護従業者に何を求めているか、「白い杖へのやさしい理解者」として、どんなに小さな情報でもいただけると助かります。

「やさしい理解者さん、新しい情報をお待ちしております!」

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コラムニスト紹介

山田 猛

ガイドヘルパー(視覚障害者)

プロフィール

1941年 中国・元満州国安東省生まれの引揚者。

1969年 立正大学経済学部を卒業後、運輸会社へ入社。航空貨物部門で海外宅配便と新規事業開発で書類宅配便クーリエサービス業務の立上げの責任者となる。のち、ISO品質管理室長として全国支店を飛び回り指導に励む。また会社品質向上を担当。

2000年9月 定年半年前に角膜移植手術を受けるが、移植に失敗。強度の視力障害を持つ中途失明者となる。
定年後、第二の人生設計を立てていたところに抱えた大きな障害。生きる希望をも見出せず失望の淵に立たされた時期を乗り越え、現在、同じ境遇の人たちを救うため介護福祉について勉強中。

介護を受ける立場にかかわり、介護をされる皆様に何を求め、また考えているかを視覚障害の症状、環境変化がありすべての方の問題とか解決策とはなりませんことをご理解頂き、あくまでも私個人として利用者が感じた点を記述してみたいと思います。

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