へるぱ!

介護を受けるプロ

第40回 私たちコロナで死ぬ前に…      2021/6/25

 今新型コロナウイルスで世界中が戸惑っている。濃厚接触してはいけないというが、障がい者はヘルパーさんに抱き上げられたり、歯を磨いてもらったり、トイレに連れて行ったりしていただかなくては生きていけない。イタリアでは高齢者と障がい者には治療しなくてもよいという話を聞いた。私は腹も立たずに冷静になり、命がけで仕事はできないのかもしれないなと思った。

 しかし重度障がい者でもしっかりと治療を受ける権利はある。病院に行ったとしても脳性まひ者は言語障がいがあったり、自分でもわからない動きをしてしまう。医師や看護師は、専門分野はわかるのだが、障がい者と接したことがない人が多い。ケアができないから病院から出て行け、と今までに何度言われたことか。私たちは、20年以上かけて病院にヘルパーをつけてくださいと市や国に訴えてきた。2019年、やっと重度障がい者のみにヘルパーが付く制度ができた。私たちにとって、とてつもなく嬉しい勝利である。

 コロナにかかってしまった人の病棟には、だれ一人として行けない。国は慣れたヘルパーに来てもらってもよいと言っているが、どういう保障があるのかを明らかにしないと、ヘルパーも近づけない。札幌の老人ホームでは30人ぐらいの入居者がいて、職員の多くは感染を恐れて辞めていき、3人しか残っていない。その3人も、今度は疲労で倒れてしまうだろう。こういうときこそ、自衛隊員が行ったらどうか。いろいろなトレーニングを受けているので、役に立つことだろう。

 ヘルパーが医師や看護師などに防護服の正しい着け方を習い、何回も自分で着てみて、どこまでケアができるのかを試してみることが重要なのではないか。まずやってみることが大切だと思う。コロナの看病をした人には危険手当などをあげ、もしかかったときには全面的に国が補償するというような決まりをつくって伝えないと、私たちはコロナで死ぬ前に、ヘルパー不足で水が飲めない、食事もできない、トイレも行けない、寝かされたままで、死んでいかなければならない。こんなに残酷な病気があったのか。私はコロナにかかってもヘルパーさんに来てほしいと思うが、言葉が出なくなってしまう。ヘルパーほどケアに慣れていないが、看護師の人たちなどに来てもらう他ないのだろうか。ヘルパーさんが外から携帯で“通訳”する方法もよいかもしれない。私は43年間障がい者が生きる権利を持つための自立生活運動を行ってきて、たくさんの制度をつくってきたが、コロナ問題は行政と戦いにくいことだ。でも今日生きられたことに感謝し、美味しいものをつくってくださるヘルパーさんたちに感謝し、前向きに生きなければいけないと思う。

一覧へ戻る

コラムニスト紹介

小山内 美智子

障害者自立生活センター 札幌いちご会 理事長
前社会福祉法人アンビシャス施設長

プロフィール

1953年生まれ。
障害者自立生活センター 札幌いちご会 理事長。前社会福祉法人アンビシャス施設長。
自身、脳性麻痺で「ケアを受けるプロ」を自認。

2008年 悪性リンパ腫を発病したが、半年の闘病生活を経て、社会復帰を果たす。
北海道大学医学部作業療法学科で教鞭をとるなど、介護教育に力を入れている。

また、著書『わたし、生きるからね』(岩波書店)などほか多数あり。

著書・出版

トップページへ