へるぱ!

介護を受けるプロ

第32回 ケアを受けるにはお互いの思いやりが大切       2019/1/21

 1980年ごろから、ボランティアの力だけでやる障がい者ケアに限界を感じ、寄付金を求め、自分たちでヘルパー事業を行ってみようと思いました。いくら社会や行政に訴えても言葉だけでは弱く、自ら行動して見せることが大切だと感じたからです。

 ケアスタッフには、クリスチャンの人も多く、クリスマスには教会へ行きたいと言われ困り果てました。そこで「クリスマスはみんなでリフトバスに乗って教会へ行こう!」と提案し、呼びかけることにしました。教会はすべてバリアフリー、たくさんのごちそうがあり、みんな安心して夜を過ごすことができました。キリスト教を嫌いな人もいたかもしれませんが、背に腹は代えられません。ケアを受けるということは、時には受ける側も妥協して、互いに譲り合うことが大切だと思っています。

 だいぶ前、あるヘルパーさんととても親しくなり、安心して過ごしていました。ところが、ヘルパーさんの身の回りで色々なことが起きたため、ヘルパーさんの様子が変わりました。自分のペースでケアを行い、時間よりも早く帰るようになったのです。言おうか言うまいか、とても悩みましたが、事業所の責任者と相談して伝えたのです。すると「小山内さんが早く帰ってもよいと言った」と言われ、心臓が止まる思いでした。私は「時間通りにいてください」と言ったのですが、聞こえないふりをして帰ってしまったのはそのヘルパーさんだったからです。

 もうそれ以上は個人攻撃になると思い諦めましたが、私たちが住む小さなアパート内、そこで何が起こっているかは他者には分かりません。時に、障がい者がヘルパーさんに暴言を吐くこともあります。息子にその悩みを語ると「部屋に防犯カメラをつければいいじゃないか?」と言いました。「じゃあ、あなたの部屋にもカメラをつけるかい?」と言うと、彼は黙りこくりました。

 ケアを受ける立場、する立場、互いに心地よく生きるためには、両方の想いを頭の中で描かないとうまく生きられないことが分かりました。そのイマジネーションをどのように伝えていったらよいのかを、私は今、真剣に考えています。

一覧へ戻る

コラムニスト紹介

小山内 美智子

障害者自立生活センター 札幌いちご会 理事長
前社会福祉法人アンビシャス施設長

プロフィール

1953年生まれ。
障害者自立生活センター 札幌いちご会 理事長。前社会福祉法人アンビシャス施設長。
自身、脳性麻痺で「ケアを受けるプロ」を自認。

2008年 悪性リンパ腫を発病したが、半年の闘病生活を経て、社会復帰を果たす。
北海道大学医学部作業療法学科で教鞭をとるなど、介護教育に力を入れている。

また、著書『わたし、生きるからね』(岩波書店)などほか多数あり。

著書・出版

トップページへ