へるぱ!

介護から学んだこと

第23回 自分の暮らしは自分で     2018/12/5

 石川高志さん(91歳・仮名・男性・要支援1)は、妻が3年前に他界、その後ひとり暮らしをしています。近県に住む子ども2人(長男・長女)は、月に1~2回訪問してくれます。加齢に伴う膝痛や腰痛をもつ石川さんはかがむことが不自由なため、半年前から掃除で週2回訪問介護サービスを利用しています。自立心が強く、自分の暮らしは自分で、と他人に迷惑をかけないことが誇りのようです。

 石川さんはいつも訪問時に「悪いねえ、申し訳ない」と言います。「掃除なんて気にしないが、汚くしているとどうでもよくなって、ますます汚くなり、ごみ屋敷になってしまうからね」と。掃除中、自分でもやれることはないか気にされていたので、私は他の訪問介護員に石川さんが使えそうな掃除道具があれば、実物やパンフレットを持って来てほしい、とお願いしました。数日で色々な掃除道具が揃い、試してみることに。かがまず風呂掃除ができる、ブラシ部分が自在に動く長い柄の道具。持ち運びしやすい充電式の軽い掃除機。高い場所を軽く拭き取れるもの。など、様々な種類を石川さん宅に持参し、使用してもらいました。

 実際にご本人が使うと、力の入れ具合が難しいものもありましたが、石川さんは「今は便利なものがあるんだね」と感心され、ご自身でホームセンターやデパートに行き、気に入った道具を購入。子どもたちにも購入を頼んだりするようになりました。アイディア商品含め様々なタイプがあり、掃除関連の商品について知る良い機会にも。今まで、利用者宅の道具を使用することに何も疑問を持ちませんでしたが、世の中にはたくさんの使える道具があったんだなぁと勉強になります。

 選んだ数種類をヘルパーと一緒に使うことで、石川さん自身も使いこなせるようになりました。そのおかげで訪問サービスは終了。少し寂しい気もしましたが、石川さんの表情は晴れ晴れとしており、良かったなと感じました。その後、石川さん宅近くを通りがかる際は声かけをするようにしています。自分で掃除をして、整理整頓もきちんとされ、食事も考えながら作り、健康的な暮らしが続いているようです。明るい表情で「何かあったらお願いしますね」と言いながら、片手には軽い埃取りを持ち、棚を拭いていました。自分の生活は自分で工夫する、そのために適切なアドバイスがどれだけできるか、たくさんの引き出しをつくっておこうと思いました。

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コラムニスト紹介

是枝 祥子

大妻女子大学 名誉教授

プロフィール

昭和39年東洋大学社会学部応用社会学科卒業後、児童相談所、更生相談所、特別養護老人ホーム、在宅介護支援センター、ヘルパーステーション等、数々の現場勤務を経験。

1998年より大妻女子大学人間関係学部人間福祉学科教授で同学部の学部長も務め、現在は同大学名誉教授。

介護職員の研修をはじめ、多くの介護人材育成に携わる。

著書・出版

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