へるぱ!

介護から学んだこと

第21回 自分の道を       2018/1/25

川崎光子さん(82歳・仮名・女性)は、集合住宅の2階にひとり住まいです。子どもは総合職で地方転勤を繰り返している長女と、近県に夫の両親と同居する次女の2人です。どちらも2~3ヵ月に1回程度は母を訪ねて、色々身の回りの世話をしています。

川崎さんは関節リウマチで朝の強張りや、日によって関節の痛みがあります。時々転倒もあるので、室内にいる時も、ゆっくり杖で歩いたり、壁に手をつくなどして気をつけながら生活しています。訪問介護は週2回利用。買い物、調理の下ごしらえ、掃除です。

とても気丈な方で、日常生活も工夫にあふれています。調理は固い野菜を事前に切っておけば自分で作り、レンジ調理が得意でもあるので「こんなものを作ったのよ」と見せてくれたりもします。娘とも良い関係で長女からは地方の物産が届き、次女は買い物や外出などをサポートしています。

先日、訪問すると、サービス付き高齢者住宅のパンフレットを何種類か見ていました。「どこがいいと思う?」と聞かれ、言葉に詰まっていると「娘たちには内緒なの。言うと心配するから。でもね、最近体の衰えが分かるの。娘たちに迷惑かけたくないのよね。それぞれの人生があるから。子どもの犠牲にならない生き方が本望なの」と川崎さん。

「確かにそうですね。でも娘さんたちに相談したほうがよいのでは? 娘さんたちだって気にしていると思いますよ」と私。「決断してから言うわ。そうでないと娘たちも決めかねるし、『決めてしまえば仕方ないよね。お母さんが決めたことだから』と言うに決まっている。そうしないとお互いに気を遣ってばかり。娘たちだって自分の将来をそろそろ考える時期だからね。親はいつまでも親らしくしていたいの。自分のため、子どもの幸せのためにもね」と。

人が生きていくのに、色々な人生があるのは当然だと思いながら、私は仕事を進めます。

ゴボウ、大根、人参、ジャガイモ、レンコン、里芋の泥洗い、皮を薄くむき、ひと口大に切って透明の入れ物に入れ、サラダ用の野菜も切っておく。川崎さんは冷蔵庫の中を見て、「お餅をうすく切ってほしい。今日はテレビでやっていた餅ピザを作ろうと思うの」と笑顔で言います。前向きな川崎さんを見ていると、仕事で訪問しているのに、人生勉強させてもらっているなあ、と感じます。

これからどんな道を歩んでいくのか、自分の気持ちをしっかり伝えられるようにしておかなければと、私も考える機会をいただくのですが、実際はなかなか難しいなと思うのです。

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コラムニスト紹介

是枝 祥子

大妻女子大学 名誉教授

プロフィール

昭和39年東洋大学社会学部応用社会学科卒業後、児童相談所、更生相談所、特別養護老人ホーム、在宅介護支援センター、ヘルパーステーション等、数々の現場勤務を経験。

1998年より大妻女子大学人間関係学部人間福祉学科教授で同学部の学部長も務め、現在は同大学名誉教授。

介護職員の研修をはじめ、多くの介護人材育成に携わる。

著書・出版

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