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考えよう!明日の福祉

第9回 恩師の死、友の死、そして親の死       2016/12/20

 昨年、大学院生時代の恩師が亡くなりました。仕事の都合でお通夜や葬儀には参列できず、後日行われた「偲ぶ会」にだけ顔を出しました。先生は、我が国における社会福祉研究や教育の第一人者で、偉い先生であるにもかかわらず、とても腰が低く、学生思いの方でした。今という僕があるのも、先生のお力添えがあってこそ。今更ながらもっと教えを請いたいと思いました。

 先日、脳腫瘍と戦っていた友も力尽きました。人生まだまだこれからの年齢。院生時代から妙に馬が合い、社会に出てからも付き合いが続く大切な友人でした。入退院を繰り返しながら福祉教育と研究に前向きだった彼から学ぶことは多く、彼と過ごした思い出が記憶に鮮明です。

 そして今年は、実家の母と父が相次いで亡くなりました。80歳代半ばですのである程度は予想できたことですが、いざ親の死が現実となると空虚感にさいなまれます。僕も妹も実家を離れ、祖父母が亡くなった後もずっと20年近く二人暮らしでした。

 父が腸閉塞や前立腺がんになり、入退院を繰り返すようになってからは徐々にADLが低下し、母親による介護がなければ父も退院後の自宅生活が困難でした。でもそこは元看護師の母、介護は手慣れたものでした。ですが、そんな母が先に逝くとは誰も想像していませんでした。訪問した妹が、夕飯仕度中の台所で急性心筋梗塞により倒れている母を発見。すぐ救急搬送しましたが間に合いませんでした。最近体力の衰えを感じていたようで「夫婦で入所できる施設でも探そうか」と口にしていた矢先です。もう少し早めに施設入所できていれば、もっと二人の生活を継続できたかもしれません。普段から親族間で各々の考え方を確認しておく必要性を感じました。

 足腰の不自由な父は実家でのひとり暮らしが困難でした。介護支援専門員(ケアマネジャー)と相談し、実家からそう遠くないショートステイ施設を利用。妹が仕事休みに実家に連れ帰り過ごす日々を続けていましたが、その後は病院系列のサービス付き高齢者専用賃貸住宅に入居。それでも、定期的な通院や体調を崩したときの病院受診は、妹の負担となります。高齢者介護の現場は医療と切っても切れない関係。だからこそ、本人にとって最善な日常生活の維持と、医療との関わりは大切だと思います。

 私の広い実家は現在ほぼ無人状態。相続等の手続きは、まだまだ時間がかかりますし、今後実家をどうするかも未定です。相続税については法改正により相続権者の数による算出となったため、相続権者の数が確定しないと先に進めません。当然ながら、相続対象となる額も決めなければいけません。親の死亡により、役所で色々な手続きをした際、年金証書がみつからない事態がありました。年金手帳でよいと言われ探したあげく、普段使わない2階部屋の押し入れ奥にある古びたカバンから年金手帳と保険証券を発見。母親は人から頼まれると断れない性格。銀行や証券会社など金融商品のセールスも断れなかったのでしょう。そのためか小口保険や信託関係の証書もたくさん見つかりました。それでも、まだ不明のものもあると思います。成年後見人や成年後見監督人をしていた経験から、自分でできることは自分で手続きを進めるつもりでしたが「相続手続きや分割協議に関しては、専門職への依頼がスムーズ」という周囲の意見も多く、銀行から紹介された司法書士に結果、依頼しました。

 現在、全国では空き家問題が深刻化。さらなる課税に議論も巻き起こっています。たまたま父が亡くなる直前に市役所から土地家屋の現状と活用状況に関する調査用紙が届き、アンケートに回答し返送するようになっていました。まさかその時は父が急性肺炎で亡くなるとは思ってもいませんでしたので、事実上、空き家状態の実家についても具体的な手続きをするまでには至っていません。現在は、地域の空き家対策に行政も対応せざるを得ない状況のようです。相談窓口も積極的にPRしているのでこの問題で悩んだら行政へ相談することも必要になるでしょう。

 この度、父親名義の実家・土地建物を相続する関係で、相続税支払いの対象額に達することは目に見えています。また司法書士からの連絡により、他2世帯分の貸家がだいぶ前に亡くなった祖父名義のままなのが判明。父は祖父の養子のため、相続権者の特定や登記上の手続きがより複雑で時間を要します。こうなるとやはり、専門職に依頼するしかありません。僕も妹もすぐに実家を処分することは考えていませんが、維持費や税金もかかることから、何らかの活用方法を考える必要に迫られつつあります。

 高齢者福祉を担当してきたにも関わらず、自身の無力さを感じた今回の一連のできごと。今後ますます多様化する人生の終末期の課題を自分の今後の生き方に重ね合わせて考えてしまいます。このコラムでは、これからの高齢者介護や医療のあり方、相続や空き家問題ついても自分の経験をふまえながらご紹介していくつもりです。

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コラムニスト紹介

福田 幸夫

静岡福祉大学社会福祉学部福祉心理学科教授
実践女子大学、獨協医科大学非常勤講師
福島県介護保険審査会委員、社会福祉法人希望の杜福祉会理事

プロフィール

1962年秋田市生まれ。

1987年立正大学大学院文学研究科社会学専攻修士課程修了、僧侶。
日本福祉教育専門学校、日赤秋田短期大学専任講師、筑紫女学園大学准教授を経て、2019年から現職。

1992年に社会福祉士資格取得、日本社会福祉士会の設立に加わり、介護支援専門員(ケアマネジャー)指導者、東京都障害児者・入所施設サービス評価事業オンブズマン、東京家裁成年後見監督人として活動。

著書・出版

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