介護に興味を持ったきっかけ
大病をした際に助けられた看護師、介護士の方々に憧れたのがそもそもの始まりです。
オークスヘルパーステーションがあるオークス株式会社(本社)は線路横にある。
線路を走るのは富山ライトレール。事務所からは踏切の音もよく耳にする。
―田中さんは介護職に就く前、神社やお寺で働かれていたこともあったとお聞きしましたが。
そうなんです。知り合いの神主さんに声をかけられたのをきっかけに、神社で高校3年間アルバイトを。卒業後はそのまま神社に就職しました。子供からお年寄りまで様々な方が神社には来られて。世代の違う方々との交流を通して、学ぶことの多い数年間でした。
体の不自由な方がいらっしゃれば、その方のペースに合わせて動いたり、ここはスロープの方がいいかも…と気付くことも多く、学校では教わらないことや、年齢が違えば、考え方や行動にも大きな違いがあることを知った職場でもありました。その経験は、今の仕事にとても役立っていると思います。
玄関。1F左奥にヘルパーステーションが。2Fがその他部門のメインオフィス。
ヘルパーステーションは、出入りしやすいよう玄関に近い場所に位置する。
―神社でのお仕事を通して介護職へ興味が?
いえ、その時は全くです。介護に興味が湧いたのは、その後、大病して入院中に看護師さんに励まされたのがきっかけです。その時は、看護師に憧れて。でもさすがに今からなるのは無理か…と思っていたところ、同じ病院内で働く介護士の方に目が行きまして。部屋の掃除や温湿布してくれたり、どこかへ行く時に誘導してくれる、こういう方達に助けられているんだと分かり、介護士ならなれるんじゃないか、と思うようになりました。それが介護に興味が湧いたそもそもの始まりです。でも、介護職に就くまでにはその後、だいぶ遠回りしましたが(苦笑)。
一番奥が田中さんのデスク。手前は、打ち合わせやスタッフの作業スペース。
パソコンを2つ使い分けて仕事をこなす田中さん。
―というと、すぐに介護職に就いたわけでもなく?
そうなんです。やりたいな、と思いながらも、退院後は、生活手段としてすぐに働ける事務職へ。その間、ヘルパー2級の資格は取得したものの、すぐに活かすわけでもなく。その後はお寺に就職…と違った職種に就いている年数がだいぶあります。お寺では、神社同様、色々な方がいらっしゃって、お年寄りの方達との会話を通じて、介護への想いを強めていった感じでしょうか。同時に18歳の時に始めたボーイスカウトでも、年上の方の独特な動きや子供との接し方など、色々自分自身を育ててもらったというのもすごく影響していますね。そして、いざ介護職へと決心した時、やるなら『訪問介護』と決めていました。でも、訪問介護をするためには、デイやグループホームを知っておいた方がいいだろうと思い、デイで半年ほど、グループホームで2年ほど働いてから訪問介護に就いた経緯があります。
ヘルパーのシフト表。時間変更などの確認はこまめにしっかりと。
携帯は2個持ち。仕事用の携帯も緊急連絡に備えて常に持ち歩き。
―それはだいぶ計画的! 目標を定めて、まずは色々経験を積もうと?
何か分からないことがあると、そこで詰まってしまうじゃないですか。そうなった時、前に進めず、掲げていた目標すら崩れてしまう気がして。だから、色々知っておいてた方が絶対にいいな、って。
スタッフ訪問ケア中に現場確認に行くことも。ご利用者さんとの触れ合いも欠かさず。
―デイやグループホームで働かれてみて、どんな印象を?
デイは、ご利用者さんの本音が分かりづらいですよね。1日来て遊んで帰る感覚に近いので、どうしても生活している時の自然体ではなく、余所行きな態度になりますし。グループホームでは、私たちが思う介護と認知症の方が望む介護に大きな差があることを実感しました。
田中さんが来ると、ご利用者さんの顔にも笑顔がキラリ。
―それはどういった点での“差”ですか?
例えば、食事であれば、介護側からしたら「今食べてほしい」と思っても、ご利用者さんからしたら「今はお腹一杯だからいらない」となる日もあります。でも「食べてもらわないと困る」わけで、どうにか食べさせようと私達はします。すると、ご利用者さんは、その職員の顔を見れば「怖い」となり、どっかへ行ってしまわれる。時に暴れたり、怒鳴ったり。すると、私達は「またあの人どっか行ってしまった」「怒鳴ってるよ!」ってなるわけです。それが続くと、その方を『認知症でおかしな言動をする人』という印象で職員側が見るようになり、でもご利用者さんからしたら、色々なことを押し付けてくる私達がおかしいわけですよね。ご利用者さんがいなくなったり、暴れたりすることには、必ず理由があることも、働いてみて分かったことです。その理由を見極め対応することが、介護職の勤めでもあるのでしょうが、グループホームという集団のなかで1人1人に寄り添うことはなかなかに難しい。そういう日常の些細なやり取りを通して、やはり訪問だな、と確信を強めていきました。
ヘルパーステーション立ち上げ時の一枚。まだ制服もなく会社玄関前で撮影したそう。
―なるほど。その後、念願の訪問介護に就かれて、デイやグループホームでの経験が活きたな、と思われることもあったりしましたか?
そうですね。訪問で伺うご利用者さんがデイやショートステイを利用されているケースもあって。訪問の方針とは違った意見を他の事業所の職員さんからいただくこともあります。訪問だけで働いていたら「なんでそんなこと言うのかしら!」と憤慨してしまうようなことも(苦笑)、かつての現場経験があるからこそ、それぞれの立場を理解することもできるので、その点、過去の経験が有り難いなと思います。
訪問時に使用する専用バッグ。OARKSのロゴ入り。
―例えば、方針や意見が異なるのはどんな時ですか?
以前、ショートの職員さんから「家で歩いているからと言って、歩いて転んだので、自宅では歩かせないようにしてください!」とお叱りを受けたことがあります。デイやショートでは、ゆっくり歩いているところに職員が1人付くわけにもいきませんし、どうしても手引きしたり、車椅子で移動せざる負えないケースも多くて。もちろん転んでケガをすれば、会社として大問題。そう言われる職員さんの言い分も分かるんですよ。でも、私達訪問としては、ご本人に歩く意思があるなら、筋力が衰えない程度に歩けるよう手助けしたい。だから、ご利用者さんには「転んだら大変だから、ショートやデイでは、向こうの職員さんにお任せしようね」と伝えることにしました。「家にいる時と外に出たときは違っていいのよ」と。何度も話すうちに、ご利用者さんも「分かったよ」と納得してくださって。こうした双方の言い分を鑑みながら、訪問で出来ることを考え、ご利用者さんに理解していただくのも大事なことだと思っています。