湘南老人ホームでの日々
医者が患者を治すように、福祉も人の心を治す力があるんだなって。
訪問から帰宅したスタッフとすぐに口頭で情報共有をする田口さん。
―湘南老人ホームで働くなかで、何か新たに感じたことはありましたか?
湘南老人ホームは、基本人を看取るという方針の施設で、自分が目指すべき考えと同じだったこともあり、それをベースにより良い施設にしていく一員になれることにとてもやりがいを感じて働いていました。改善すべき部分も一杯あって、自分的にもすごく勉強できる場だな、と。
ピンクの壁がチャームポイントのオフィス内。
―改善すべきこととは、どういうことですか?またそれに対して田口さんが取り組んだことって何かありますか?
そうですねぇ。色々ありますが、特に自分は、ご利用者さんの外出にこだわっていましたね。業務でいくら忙しいと言っても、通院の日は、シフト調整して何とか行けるようにするわけで、同様に外出する時間もとれるんじゃないかなと思ったわけです。それに、ある時、ご利用者さんに『死ぬまでにしたいこと』を聞いてみたことがあって。すると、みんな抱いているのは、さほど大きい望みではないんですよ。「筆記用具を買いに行きたい。教会に行きたい。髪を染めたい…etc」とか。それであれば、実現できると思って、パートの方に協力してもらいながら、早く仕事を終わらせて、夜勤前に教会に一緒に行ってもらったり、とかしてましたね。
今日お休みの介護支援専門員の方の席にいたのは、カエルちゃん!!
―では色々なことに取り組める環境でもあったのですね。
そうですね。でも最初からそういうことを言い出したわけではなく、周囲の様子を見ながら徐々にです(笑)。それを実現させるための業務効率化にまずは力を入れて、実際にできるようになったのは、3年目の時。重複して書いていた記録を1つの書式にまとめてみたり、無駄な時間を少しずつ省いていった感じです。
受話器に貼られた顔。お菓子に付いていた紙に各自表情を書き加えてオリジナルに。
―実際、望みが叶った時のご利用者さんの反応は?
ある時、寡黙でベッドからあまり出たがらないおばあさんが「教会に行きたい」と突然話してくれたことがありました。急いでご家族や昔の写真を見て通っていた教会を探し出し、クリスマスイブの日に教会にお連れしてミサに参加したんです。すると後日、あまり話さなかった方なのに、「入れ歯をいれたい」「ヨーロッパに行きたい」「髪の毛を染めたい」「お寿司が食べたい」とやけに話してくれるようになりました。さらに、ベッドから出てくる時間も増え、職員に話しかけることも多くなりました。
そんなことを繰り返していくと、ご利用者さんがいきいきとしてくる変化に気づき、ただ、排せつ、入浴、食事介助だけをこなすのが介護ではないと思うようになりました。福祉には人を変える力がある、と実感した瞬間です。医者が患者を治すように、福祉も人の心を治す力があるんだなって。これぞ、この仕事の醍醐味。でも在宅に来て、ヘルパーってそれを感じる機会が少ないのでは?とも思うので、これからは、「介護って楽しい」とヘルパーさんに思ってもらえような機会をもっと増やしていきたいです。あとは、自分がこだわっていた「看取り」。こうした経験を通して、お亡くなりになる最後のことだけを言うのではない。お年寄りの場合は、出会った瞬間からが看取りであり、ケア全てが看取りの延長なんだと思えるようになって、逆に今では「看取り」にこだわらなくなりました。