介護者としての27年間
表には見えてこない寂しさを埋められる存在でありたいです。
勝田さんのお仕事は現在、事務所での作業がメイン。
―介護歴27年と長年この業界で働かれてきた勝田さんですが、そもそも介護のお仕事を始められたきっかけとは?
祖母が亡くなる少し前に「寂しい、死にたいな」って言った言葉が、ずっと頭から離れなかったこと、それが介護に興味を持ったきっかけでもあります。私は幼少の頃、祖父、祖母含め8人家族、なかでも祖母の存在がすごく大きいなかで育ちました。母よりも側で温かく見守ってくれている、そんな安心感があるおばあちゃんで、お茶の飲み方やお箸の使い方、いいこと悪いことも、どうしてダメなのかを静かに教えてくれるような人でした。常に家の中心でいたはずの祖母が「寂しい、死にたい」って言った時は、ものすごくショックを受けましてね。私達に何が足りなかったんだろう?何か出来ることはなかったのかな?ってその後も色々と考えたりしました。
勝田さんの席から見た風景。スタッフ全員が見渡せる。
―その言葉が心にずっとあったから、介護の仕事を始められた、ということですよね?それはいつのタイミングでですか?
私が33歳の頃でしょうか。結婚して子供が小学1年の時に主人と福祉会館に手話講習会を習いに行ったんです。そこで青いユニフォームを着た家庭奉仕員の方たちが、にこやかに「こんにちは」「元気?」と声をかけてくださり、すごく元気をいただいて。その姿に心惹かれたので、お仕事を伺ったら、市からの委託で地域高齢者の所へ行き、お世話をしている、と言うんです。つまり今で言うヘルパーさんですよね。祖母の言葉で色々考えた気持ちとリンクする部分もあり、私もやってみたいと思うようになりました。その時調度、渋川市社会福祉協議会のヘルパーの正職募集を見つけ、応募し採用いただいたのが平成元年1月のことになります。
ケアに向かうヘルパーさんに「行ってらっしゃい」の掛け声でお見送り。
―実際、お仕事をされてみてどうでしたか?
最初は不安だらけでした。技術的な部分はもちろん、職場の雰囲気に馴染むのにも時間がかかりました。主婦の人たちが集まってお茶を飲みながら和やかに~と勝手に想像していた部分もあったので、現実とのギャップに戸惑いを感じたんですよね(苦笑)。技術面では、先輩に同行してもらい、玄関の入り方や挨拶の仕方1つ1つまで丁寧に教えてもらいました。色々な先輩に付くことが出来たのも良い経験でした。人によって考えやケアの仕方が違うから、色々なノウハウを学ぶことが出来たんです。また、身体・家事援助だけではない、その人の思いや気持ちの深さを推し量りながらケアをするんだよ、といった気持ちの持ち方についても教わりました。それが今の私の基礎であり、変わらず大切にしていることでもあります。
携帯は自分用と仕事用の2個持ち。
―様々なご利用者さんをケアしてきたなかで、印象的な方はいらっしゃいましたか?
お酒をすごく飲まれて、一見すごく怖い、真心で接しないと拒否されるご利用者さんのことはすごく記憶に残っています。自分がまだ不慣れだったこともあり、最初ケアに入るのがすごく嫌で…。でも、心を込めて対応させていただくうちに距離感も徐々に縮まっていったんです。その方は、買い物袋にテイッシュを敷き詰めたものでトイレを済ませたり、ガスがないなかで、電気ポットでゆで卵を作ったり。足りない物を買って補うのではなく、家にあるものを上手に活用して暮らすのが得意な方でした。そうした生活の知恵であったり、自分で何とかしていく対応力を私はその方から学んだ気がします。
広々とした事務所内に差し込む陽の光も心地よい。四季の変化も窓越しに楽しめる。
―なるほど。まだ物が十分にある時代じゃないからこそ、何とかして生きていく人間力みたいなものも、今より昔の方があったのかもしれませんね。
そうですね。当時のご利用者さんには「人の味わい」「人の旨味」を感じられる人が多かったように思います。そういう方たちと関わる面白さが介護の仕事を好きになる理由でもありますし、また何よりいただくもの(得られるもの)も大きかったです。
―色々なご利用者さんと関わってきた勝田さんだからこそ、ケアに入る時に気を付けていることってありますか?
その方の心拍に合わせて自分も呼吸をするように心がけています。そうすると、相手の体調や波長に自分も同調して、お互いが苦しくないんです。心臓が一番大切なので、呼吸する速度や深さを感じながら、今は何を考えているのかな?というところまで近づくと、ご利用者さんの状態を把握しやすくなります。ただ「こんにちは」「大丈夫?」だけではない部分まで見られるのが、私達ヘルパーの仕事であり、逆にそこを感じ取れるヘルパーでありたいですよね。「寂しいよ、死にたいよ」と言ったおばあちゃんがいたように、表には見えてこない寂しさや思いを、私達が行くことで満たすことができればいいなと思います。