『ヘルパーステーションきたざわ苑』での取り組み
サ責業務をヘルパーに分担することから始めました。
報告書をもとにケアマネとの連絡は欠かさずに。
―先程「問題が山積みだった」とおっしゃいましたが、どういう点でですか?
「きたざわ苑」は、世田谷区というハイレベルな土地柄もあってか、ヘルパーを希望する人材がすごく少ない。だから、経営的に無駄のない、直行直帰型の登録ヘルパーはさらに集まらないので、時間給でまとまった時間働くことのできるヘルパーが中心となり、援助をまわしていくことが主流の運営となります。しかし、ヘルパー利用者はショートステイが入ったり、急きょ入院したりと、援助予定がキャンセルになることが多く、ましてや在宅介護が困難となっていくケースでは、1日2回や3回、毎日の訪問依頼があったご利用者さんが、急きょ施設入所に至ったり、永眠なさった場合、その時から、今まで入っていた援助は全てなくなります。ショートや入院中では、実際の訪問がなくとも、いつでも自宅に戻ったら援助が再開できるよう、予定枠は最低1カ月はとっておかなくてはなりませんし。また、利用終了者の、1日3回あった援助枠がなくなっても、すぐに新しいご利用者さんで埋まるということは滅多になく、再び1件ずつ、新規を増やしていくしか方法はありません。しかも、時給性のヘルパーさんには例え援助がなくとも、時給を支払わなくてはなりません。まとまった日数働いて下さっている非常勤さんには、有給も発生しますし、雇用保険にも加入しているので、登録ヘルパーを多く抱えている事業所に比べたら、うちの事業所は、サ責も、日常、自ら援助に出て、稼げる時に稼いでおかないと、いざという時に、一気に赤字になってしまう。よって、サ責は、現場の訪問介護をこなさなければならないうえに、さらに援助後や訪問の合間に、事務や新規調整、担当者会議や契約、モニタリング訪問にも出て…と忙殺でした。何より当初は業務にまだ慣れていないこともあって、業務の取りこぼしやサービスの質にも影響が出てしまい、これはもう、仕組み自体を変えていかなければ、と思いましたね。
災害時スムーズに対応できるよう、机横の見やすい場所に避難訓練の詳細と広域避難場所の表を。
―どんな風に改善していったのですか?
まずはサ責業務を時給性の非常勤ヘルパーさんに分担してやってもらうようにしました。最初は「何で私達が?」「そんなの責任者がやるもの」と理解されず「私達は非常勤だからやらなくていい」と拒否もされましたが、その都度説明して。そのうちに「チームだから助け合いましょう」と言ってくれるスタッフが現れたりして、そういう人達を味方につけながら、今では安心して任せられるまでになりました。
9月に行なわれるお祭りの神輿が入口に展示。地域の行事にも施設全体で積極的に参加している。
―それは会社としての人材のリスクヘッジにもなりますよね。
そうなんですよ。私が万が一身動きとれなくなってしまっても、替われる人材がいるのは安心です。それに、色々な業務に携わったほうが本人の実力アップにもつながるはず。一昔前は、ヘルパーというと「‘世話好き’の延長」や、「主婦の小遣い稼ぎ」というイメージが強く、ヘルパーに対しての社会的評価は低かったと実感しています。でも今の時代ヘルパーに求められているのは「介護のプロ」であること。それがご利用者さんの事業所に対する評価や信頼につながってくるのです。介護技術や生活援助、更に「おもてなし」の接客も含めて、ご利用者さんを満足させるスペシャリストであることが問われるなかで、私もそういった人材の育成、選定を心がけるようにしてきました。
施設外の道幅は広く、車いすでのお散歩もしやすい。緑も多く、気分ものびのび。
―なるほど。では働いている皆さんの意識も高く?
そうですね。物腰柔らかですが、皆芯は通っています。また、「自立支援」を妨げるようなやり過ぎる援助はしない、というのが「介護のプロ」だと思うなかで、例えば「新規の方で、実際動いている動作を見てきたら、お一人で問題なく出来るので、この援助はカットしてもいいのではないかと思います」とスタッフがきちんと情報共有してくれるので、その報告を受け、私もケアマネに報告し一緒に相談しながら、「もう少し様子を診て、問題なかったら来月からは、この援助はなしにしましょう」など、提案するということができたりします。反対に必要となれば、明日からでもという勢いで、追加援助の提案をしています。一番本人の生活に接することの多い、身近な存在のヘルパーならではの「気づき」が、うまくケアマネにつなぐ橋渡し的役割も、上手に自分が担えたらと思いますね。
―現場に多く入るヘルパーだからこそ気付くようなこともたくさんありますものね。
生活を預けているヘルパーだからこそ、言えることってすごくあるんですよ。全く援助に普段入っていない利用者さんで、サ責の月1回だけの訪問で聞き出せる情報量ってわずかで、「何かありますか?」と聞いても「特に何も問題ありません」とおっしゃる方が実際は多いです。でもいざヘルパーさんが介護に入った時とか、実際、ヘルパーとして援助に度々入っていると、徐々に援助中、「実はね…」と思うことを素直に打ち明けたりして…。その辺はきちんと吸い上げて、より的確な問題解決に向けて、ケアマネやデイ、訪看、ショート等、サービスに関わるスタッフ全員に、常に速やかに情報発信していきたいと心がけています。
また、「情報発信」という面においては、きたざわ苑は複合施設なので、併設しているケアマネやデイ、訪看やショートとの連携がとりやすい点が、大きな「売り」でもあります。日常援助の情報交換のみならず、日々の業務についても、気軽に相談できたり、月1回のヘルパー会議では、「リハビリ」や「栄養」・「デイ」・「地域包括ケアセンター」など、その時々の議題にあった、各部門のチームマネージャーに講師として来ていただき、直接ヘルパーの日々の悩みに応えてもらったりできるなど、そういう意味でも、スタッフ同士の団結力も良いですね。また、発信した情報に対してのフィードバックが、各部門から直接もらえるので、ヘルパーが発信した情報がスピーディーに結びつき、素早いケア向上に結び付いている充実感が日々あります。