>■高齢者への思いやりが自然に根づく町。それが、私たちの地域の良さです。
―米原さんは、今朝、何時からお仕事をされていたんですか?
米原さん:最初の訪問は、朝の7時30分からでした。
▲訪問には車が必須という。駐車場にはワゴンから軽自動車まで、あらゆる車が並ぶ。
―ずいぶん早い時間から訪問されていらっしゃるんですね。
米原さん:本来は午前9時からが最初の訪問予定でしたが、昨夜、7時30分からの利用者さんを担当するヘルパーさんから体調不良の連絡が入ったため、スケジュールが変更になりました。普段はデスクワークもあり、そう多くのケアに入れないのですが、代理で入るときには7~8件ほど訪問するので、一日じゅう出ずっぱりになることもあります。
▲利用者さん宅にも電動3・4輪車が。
―訪問に向かう際の移動手段は?
米原さん:スタッフ全員、事業所の車を使用しています。訪問地域が南房総市・館山市・鴨川市の3市と広範囲にまたがっているうえ、この辺では車移動が主流で行動範囲がとても広いため車は欠かせません。私たちのヘルパーステーションだけでも、8台の車が割り当てられています。ですから利用者さん宅への直行はなく、ヘルパーさんにも一度事業所に立ち寄っていただいて、車を乗り換えてから在宅サービスに向かっていただくという形になっています。
―車移動がメインの地域となると、高齢者の生活にも影響がありそうですね。
米原さん:ええ。地域がら、1日に走る公共バスの本数が少なかったり、駅が遠かったりするので、お元気な高齢者ですと、電動で動く車「電動3・4輪車」をご自身で運転して移動されている姿が、わりと見受けられます。この乗り物は運転免許証が不要ですし歩道を走行することも可能なので、高齢者でも安全に運転することができます。歩行が困難な方にとっては、ちょっとご近所に用を足しに行くにも便利ですからね。
▲買い物代行中の米原さん。お弁当をチョイスするのも利用者さん目線で。
―この地域にお住まいの利用者さんの特徴は?
米原さん:地域全般的に高齢者の割合は多いほうで、お年寄りだけで暮らしておられる老老介護や独居の方などを見かけます。そういった利用者さんのお宅では、交通の便だけではなく、さらに生活に困難さが増した現状があると感じさせられることがあります。
――例えば、どんな場面で困難そうですか?
米原さん:老老介護ですと、介護度2のご主人を要支援2の奥様が介護するという利用者さんがいらっしゃいます。ご主人の傍を片時も離れることができないため、身の回りの仕事がおろそかになってしまうと言っておられました。他にも、夜中のトイレに何度も起こさなくてはいけなかったり、入退院を繰り返されるお2人での年金生活の厳しい現状などが垣間見られますね。
また独居の利用者さんは、外出の難しい方が多いです。例え介護度が軽くて外出が可能だとしても、土地柄、車がないと移動が難しいんですね。しかし利用者さんの車同行は認められていないので、お買い物があっても私たちによる買い物代行となっています。そう考えると、代行する私たちヘルパーが利用者さんの目となり足となって、希望の品を揃えて満足していただけるようにすることが私たちの大切な役割なんだと思っています。利用者さんの希望に沿ったものを提供したい、そう思って代行させていただいています。
▲利用者さんと一緒に布団を整える。自立支援のため、「できることはなるべく自分で」行っていただくのだとか。
――外出の困難な利用者さんは、人との交流もなくなってしまいそうですが。
米原さん:でも、この辺では、意外にご近所さん同士の交流はあるんです。独居の利用者さんのお宅に、ご近所の方が菓子やお料理などのお裾分けを手にふらりと遊びに来られて、世間話をなさっている様子をお見かけすることが度々あります。利用者さん同士がお友だちで、他の利用者さんから「○○さん、この間転んじゃったんだって」などと、状況を教えていただいたことで、身体の打ち身への対処が行えたことも。
また高齢者の対応について、私自身が知り合いから尋ねられることがありました。ちょうど担当の利用者さんで介護状態も把握していましたので、「自分で歩ける方ですから、見守ってくださると嬉しいです」とお伝えしました。他にも、高齢者ご夫婦が道路わきで転倒した際には、近くで農作業を行っていた男性が助けてくださったという話を聞きました。
そんな地域の方々の様子からは、知り合いかどうかなど関係なく、地域全体に高齢者を気遣う気持ちや温かさがあると感じさせられます。そんなところが、この地域の大好きなところです。将来的には、もっと高齢化が進むでしょうから、高齢者への優しさをいつまでも大事にしていきたいですね。
■モットーは、利用者さんの「居心地」、ヘルパーさんの「働きやすさ」。
▲早朝から3件の訪問をこなし、ようやくホッと一息つけたのはランチタイム。スタッフとの交流の場でもある。
―独居や老老介護の在宅介護では、心配なことも多いのではないですか?
米原さん:そうですね。今年の年明けからは、入院されている利用者さんが多く、独居だったり高齢のご夫婦お2人だけという場合は、さらに心配でした。以前、独居の方のケアに伺った際、玄関先で倒れられている利用者さんを発見したことがあります。すぐ救急車を呼んで病院に搬送していただきました。あとで診断結果を伺ったところ、その利用者さんは糖尿病を患っており、低血糖で倒れたとのことでした。
その経験以来、糖尿病を患っている方には、ケアに入る際、必ずいつものように受け答えができるかどうかなど、一般状態を確認させていただいております。居心地良く過ごしていただくためには、体調管理が最も大事ですからね。
▲ケアが順当に進行するよう、1週間分のスケジュールを立てるのもサ責である米原さんの仕事だ。
―利用者さんの居心地を考えて体調管理に気を配っていらっしゃるようですが、そのほかにも利用者さんのケアで気をつけていらっしゃることはありますか?
米原さん:お食事には気をつけています。特に、ご病気を患っていらっしゃる利用者さんのお食事の味付けには気をつかいます。通常であれば、なるべく満足いただけるよう利用者さん好みの味つけでお料理を提供したいと思っていますから、必ず味見をしていただいたり、各ご家庭独特の味付けを大事にしたいと心がけています。
▲仕事の合い間にコミュニケーションを交わすヘルパーステーション。米原さんは、仕事をしながらも聞き役に。
―米原さんはサービス提供責任者ですから、利用者さん以外にも、ヘルパーさんへの責任というのもついて回りますよね
そうですね。私がヘルパーさんに対して心がけているのは、いかに働きやすい環境にして差し上げられるかということです。
―そのために心がけていることはありますか?
米原さん:私たちの事業所のヘルパーさんは、私よりも年上の60代くらいの方もいらっしゃいますし、他の施設でご経験を積まれているベテランの方もいらっしゃいます。ですから、まず、それぞれのヘルパーさんに合わせて対応することが、働きやすい環境づくりだと思っています。
相談ごとを持ちかけられたなら、一緒に考えさせていただいたり、ヘルパーさんが事業所に戻ってきた際には、なるべく話を聞く姿勢を持つように心がけています。胸のうちに何らかの思いを抱えていては、いつかどこかで溜まったものが溢れてしまうと思うんです。ですから、なるべく事業所では、沢山話して気分をリフレッシュしていただきたいですね。