■いま気になっているのは、独居の方の“暮らし”です。
▲利用者さんの昼食づくり。本日のメニューは、「鮭とほうれん草のかけそば」。
―訪問されている利用者さんに地域性を感じることはありますか?
平井さん:私たちの事業所では中野・新宿付近を訪問していて、独居の利用者さんとご家族と同居されている利用者さんの割合は半々くらいです。
この辺りは最近になって、とくに独居のお年寄りが増えているという気がしますね。
▲昼食後には、ベッドまで移動介助。歩きやすいよう手で腰を支える平井さん。
―中野や新宿にお年寄りが多いというイメージは、あまりないのですが。
平井さん:私たちが訪問している中野新橋周辺や新宿の百人町は、お年寄りが多い地域のような気がします。私が気になるのは、都心部の過疎化現象です。商店街でお店を経営されている方のなかには、働けなくなると後継者がいなくてお店をたたんでしまう姿もよく見かけます。お店はどんどん潰れて、今では夜の6時になるとシャッター街と化しています。
独居のお年寄りが増えてきた町ですから、週に一度ほどしかケアに入らない利用者さんが1人きりで過ごす時間は心配になります。
▲訪問の最後には、ご家族や担当ヘルパーと情報交換を行う連絡帳に記録。
―そういった利用者さんの様子を確認するような取り組みはしているのでしょうか?
平井さん:私たちの事業所の利用者さんもそうですが、独居の方のお宅を、役所の方や民生委員さんが見回って安否確認をするという活動は地域ごとで行われていますし、利用者さんによっては親しいご近所の方が気にかけて様子を見てくださることもあります。
ヘルパーとして私が心がけているのは、訪問が終了して独居の利用者さんのお宅を出るとき、万全の体制を整えることです。たとえば、足が不自由な利用者さんであれば移動が不便なので、あらかじめベッドに寝かせ、必要な水分や食べ物などは手を伸ばして取れるところに置いておきます。また照明の明るさやエアコンの温度を調節して過ごしやすい空間を整えるなど環境へも気を配るようにしています。
それから会社の留守番電話のメッセージは、携帯に転送していたり所長の自宅や携帯電話を緊急連絡先にしてあるんです。さまざまに工夫して、いつでも利用者さんとコンタクトをとれるようにしておきたいですね。
■ハードな毎日だけど、常にベストを尽くしていたい。
―平井さんが介護に関わるようになったキッカケについて教えてください。
平井さん:「つくしの会」の所長が事業所を立ち上げるときに、事務職員がいないので手伝ってほしいといわれたんです。当時の私は、介護とはまったく違う出版関係の仕事をしていましたけど、半年くらいは兼務しながら夜だけ介護事務を手伝っていました。その後、自然に介護職に移りましたね。
―ヘルパーになろうとした理由は?
平井さん:現場のことが気になり出したからです。介護事務のお仕事を通じて、介護度や時間などによって利用者さんが負担する金額が違うのはなぜ? という疑問が沸いてきました。現場を知らない私には、なんで一人ひとりのサービス料金に計算が必要になるのか理解できませんでした。そこで、実際に現場で働いたら分かるんじゃないかと思い、ヘルパー2級の資格を取得することにしたんです。ヘルパーとして動いてから、ようやく現場と書類の内容が合致するようになってきたんですね。
▲今日のランチ休憩は40分。公園でひと休み中だ。
―平井さんは、ヘルパー2級以外にも資格を取得されているとか。
平井さん:ええ。「介護用具専門員」と「ガイドヘルパー」の資格を持っています。「介護用具専門員」は、身体が不自由な利用者さんが必要としている歩行器や車椅子などの用具に関する相談を受けることができます。そして「ガイドヘルパー」は、障害のある方の外出介護をサービスできる資格で、網膜色素変性症という目の病気を患っていらした利用者さんの担当になってから、適切な対応をしたいとの思いで取得しました。
以前は利用者さんが困っていたら何でも協力したいという気持ちでしたが、今は介護業界全体が利用者さんの自立を目指すようになっているので、私自身も利用者さんの補助的な立場で接するようにしています。しかし、いざというときには安心して頼っていただけるヘルパーでありたいと思っているので、必要に応じて資格も取得するようにしているんですよ。そうしているうちに、いつの間にか6年も介護職に携わっていましたね。
▲自分で階段を下りる利用者さんの場合は、フォローにまわる。/p>
―6年も携わっていると、平井さん自身の仕事への責任の度合いも変わってきているのではないですか?
平井さん:初めは介護について何も分からないところからスタートしましたが、今ではヘルパーさんのスケジュール管理から経理面までの業務を担うまでになっていますね。現場にも出なくてはいけないので、すべての業務を行うために移動しているあいだでもヘルパーさんや事務スタッフと携帯でのやり取りが欠かせないほど仕事をこなしていることには、やりがいを感じます。
―毎日がとても忙しそうですね。
平井さん:はい。だけど、こうしてハードワークをこなしているのは私だけじゃありませんから。一緒に働いているヘルパーさんも同じで、中野から自転車で40分もかかる四谷のような遠いところにも、たとえ30分だけの訪問だとしてもそれだけ時間をかけて移動しますし、次の訪問先までの移動時間が5~15分しかないなどの状況が発生するのはザラですしね。
今のような寒い時期に自転車で移動していると、トイレ休憩ができずに困ってしまうんです。だからヘルパーさんによっては、“トイレマップ”を作成して持ち歩いている方がいらっしゃいますよ(笑)。
それから私は、あまりに忙しくていっぱいいっぱいになったとき、すぐに整体やマッサージの予約をいれるようにしています。体の疲れを取ることはもちろん、仲良しの先生と話をすることで精神的にも穏やかになれて、また頑張ろうという気持ちが湧いてくるんです。
>▲利用者さんを病院に送り届けると、すぐにスタッフらと携帯でやり取りを行う。
―そんなに頑張れる平井さんの原動力は、どこから来るのでしょう?
平井さん:やはり利用者さんからでしょうか。ケアが終了した後に「ありがとう」とか、訪問した私の姿を見て「あなただったの、よかったわ」と声をかけていただけるのは、とても励みになります。
私は、ふと立ち止まって自分の歩いてきた道を振り返ったとき、過去を笑って思い出せるようにしていたいんですね。そのためには利用者さんと関わる一瞬一瞬、常にベストを尽くす自分でありたいと思っています。「今」を過ごすだけでやっとなんですが、今年はまずケアマネージャーの資格を取るという目標からクリアしていきたいと考えています。