■最大のメリットは「いつも顔が見える」こと
▲利用者宅のベッドを整える木原さん。
―どのくらいの世帯がこちらで生活をなさっているのでしょうか?
木原さん:現在、自立の方を含めて全部で84世帯が入居されています。
―訪問スタッフは何名いらっしゃるのでしょうか?
木原さん:介護が必要な入居者様のお宅へはスタッフ11名が交替で訪問しています。訪問スタッフ11人の内訳はパートのヘルパーさんが6名、サービス提供責任者は5名です。管理者は1名で、サービス提供責任者と兼任しています。
―訪問先では具体的にどんなことをなさるんですか?
木原さん:利用者様のケアプランに基づいて、主にお部屋のお掃除や整理整頓、入浴介助、食事介助、口腔ケアを含めた起床介助や就床介助などを行います。お買い物の同行で外出することもあります。お食事は利用者様の栄養バランスを考えてプロの調理師が作るので、私たちが直接調理することはありません。
―1日の訪問件数が多いですよね?
木原さん:私たちの事業所ならではだと思いますが、同じ建物内の移動なので、移動時間がほとんどかかりません。だから、時間から時間で利用者様のお宅を訪問することができます。それに天候にも一切左右されません。雨が降ろうが嵐が来ようが、渋滞にはまることもなく、決まった日の決まった時間に訪問してお世話させていただくことができます。
▲水周りはしっかり雑巾掛け。
―それ以外にもメリットはありますか?
木原さん:まだまだありますよ。例えば入浴介助。ここは建物自体が高齢者の集合住宅として作られていますので、お風呂も高齢者が入りやすい作りになっています。段差もありませんし、床材もすべりにくくなっています。手すりが必要な方には必要な場所に手すりを取り付けることもできますし、全介助の方にも万全の体制が取れます。だから、一般住宅のお風呂に比べて、利用者様だけでなく介護をする私たちにも優しいんですよね。
それに、私たちスタッフの洋服が入浴介助の際に濡れてしまっても、すぐにステーションで着替えることができるので、入浴介助のたびに着替えを持って移動する必要もありません。でも、最大のメリットはいつも顔が見えることによって生まれる「ふれあい」と「安心感」だと思います。
▲スタッフと話しながらランチを取る木原さん。毎日の情報共有は欠かせないと言う
―「ふれあい」と「安心感」ですか?
木原さん:ええ。私たちは介護プランに沿って訪問をしますので、本来なら決められた時間の中でお世話をすることになります。ところが、ここだと事業所と同じ建物内に利用者様のご自宅があるので、介護プランの時間以外にも利用者様の顔を見たり、コミュニケーションをとったりすることができます。触れ合う機会が自然と多くなるんですよね。それが安心感に繋がるんでしょうし、安心感があるから信頼してもらえるんだろうなぁって思います。これは通常の在宅ケアとは大きく違うところではないでしょうか。
例えば、共有スペースのサロンに行けば他の利用者様ともお話する機会がありますし、その時の表情や状態を見て利用者様の健康状態などを知ることができます。そうして得た情報をヘルパー間で共有しておけば、次に訪問した際の声かけもしやすくなりますし、その後のお世話も比較的スムーズです。
―自立している方との交流もありますか?
木原さん:沢山あります。利用者様だけでなく、ご入居されている皆様のお名前も自然と覚えるので、訪問介護を利用されていない自立の方とも親しくご挨拶を交わしますよ。そういった日常の交流があるから、後になって私たちのお世話が必要になった際にも抵抗がないんでしょうね。
■介護の仕事に夢中です
▲木原さんが作ったトールペイント。館内随所に飾られている。
―木原さんは高齢者との関わりが苦手だったそうですね。
木原さん:幼少期に一緒に住んでいた父方の祖母が、しょっちゅう、物がなくなったとか何か取られたとか言って大変でした。当時子どもだった私は「何でこんな風になるんだろう?」と思うばかりで、目の前で起こる祖母の言動が全く理解できませんでした。それがあって、私は高齢者に対してあまりいい印象がないまま大人になりました。
―それなのに、なぜこの仕事を選ぶことになったのですか?
木原さん:シングルになって、子どもを抱えて生活をしていかなくてはならなくなったのもキッカケと言えるかもしれません。たまたまですが、雑誌で「ヘルパー2級」の資格案内を見て資格を取ろうと決意したんですよ。自分の感性を広げるためにもいいかなぁって思いましたし。だから、最初から「介護の世界に入りたい!」と構えて入ってきたわけではないんですよ。
▲食事介助をする木原さん。
今の会社に入社したのも、求人広告を見て応募したのがキッカケ(笑)。当時はまだヘルパー2級の資格取得中でしたが、資格取得まで2ヶ月を残したところで面接を受けました。そして、講習中でも働けるグループ内の施設で働きながら資格を取得しました。それから4ヶ月後、現在のヘルパーステーションのオープンと同時に異動してきたんですよ。それから色々な経験をし、2年前にサービス提供責任者になりました。
―強い思い入れがあって介護職を選んだわけではないんですね。
木原さん:正直なところ、「何となく」介護の世界に入ってきました。でも思っていた以上に奥が深くて、続けているうちにもっと知りたい、もっと勉強したいと欲が出てきました。徐々に情熱が湧いてきて、今は介護の仕事にどっぷりと浸かっています。今年はケアマネージャーの資格にも挑戦する予定です。
▲食事介助中のワンシーン。同じ席に座る別の利用者さんとも笑顔でお話をする。
―ケアマネージャーの資格にもチャレンジなさるんですか?
木原さん:ええ、是非資格を取りたいですね。でも、ケアマネージャーとして働くためではなく、介護業界で働き続けるためのキャリアアップのひとつとして、利用者様に喜んでいただける介護を模索するための手段として考えています。ケアマネージャーの資格を取れば、今までとは違った新しい関わり方で利用者様と向き合うことができるんじゃないかと思いますしね。
―5年4ヶ月の経験の中で、介護の仕事を辞めようと思ったことはありませんか?
木原さん:全くありません。逆に、もっともっと知りたい、学びたい、関わりたいという欲求が強くなりました。私は飽きっぽいのか、「向いてないなぁ」と思うとすぐに仕事を辞めてしまうタイプなんですね。でも、この仕事になってからそれが一度もない。だから、天職なんだろうなぁって思っています。
実は私、フォークリフトを操作する免許やショベルカー等の車輌系建設機械運転の免許も持っているんですね。だからここに就職した後にも、「折角苦労して取得した免許を活かした仕事に就かないか」と誘われたことがあるんですよ。でも、心変わりすることはありませんでしたね。
―毎日が充実している、という感じでしょうか?
木原さん:そうですね。不謹慎かもしれませんが、私は介護の仕事を楽しんでいます。毎日が新しい発見の連続で、本当に楽しいですよ。特に認知症の方々との関わりは毎日が「はじめまして」の繰り返しで、ある意味新鮮です。でも、前回のやりとりをしっかり覚えていらっしゃることもあるんですよね。全部忘れられるわけじゃないんだなぁーというのも、また新しい発見です。それは介護度が高い方も同じ。だから、常に新しい気持ちで接することができます。
それから、利用者様とのふれあいを通し、「私はどんな風に年をとっていくのかな」と、私自身の老後を想像してみることもあります。苦手だなぁと思っていたはずの高齢者との交流が、こんなにも楽しく面白いとは思ってもみませんでしたね。