(2)マンツーマンの在宅型。だから、沢山悩みました。
▲「○○さん!」デイサービス施設でのお迎え時、利用者さんに声をかける井野さん。
―もともと介護に興味があったのでしょうか?
井野さん:そうでもないんですよ。正直なところ、別段意識はしていませんでした。大学の頃ですね、今の仕事を意識しだしたのは。大学生当時、教員になりたかった僕が教育実習で伺った先の学校で障害児たちと触れ合う機会がありました。そのときに「あー、こういうのもいいなぁ」って思ったんですね。それがキッカケです。
考えてみると、子どもの頃から特殊学級との接点はあったんですよ。仲良く遊んでいた友達が特殊学級にいましたし。そういったこともあってか、次第に今の仕事に興味を持つようになりました。それで、大学卒業後に障害児・者のための施設で働くことにしたんです。そこで約2年ほど働いて経験を積んで、今の事業所に転職しました。
―なぜ施設を辞めて、こちらの事業所へ転職なさったんですか?
井野さん:利用者個人に合わせたサービスを提供することに興味があったんです。入所施設だと複数の人を複数のスタッフで見守ります。その分、責任は分担されます。けれど、どうしても限界がある。個人に対して目が行き届きにくいと感じたんです。その人個人の生活の部分までは見られないし、施設の中のごく限られた世界しか見せてあげられない。それがもどかしくて。それで転職しようと決めました。
▲本日行動支援を行う利用者さんと合流。車に乗って、一旦利用者さんのご自宅に。
―そうなんですね。
井野さん:でも、いざ始めると本当に大変でした。何の知識もないわけですからね、当然といえば当然ですけれど。
―施設と現在の事業所でのお仕事は、具体的に何が違いますか?
井野さん:責任の重さとバリエーション、ではないでしょうか。
―「バリエーション」というのは?
井野さん:遊びや思考の幅、要するに利用者本人の選択肢の数が違うんですよね。遊んだり行動したりする場所が施設内だけだと、選択肢も限られてしまいます。けれど、在宅型の場合は法的に不可能なこと以外なら、何でも出来ます。利用者本人の意思を尊重したサービスを提供できるんですよね。
▲「今日は博物館に行くよー!」
楽しそうな利用者さんと井野さんの声が響く車中。
―でも、「責任が重くなる」ということでしょうか。
井野さん:その通りです。高齢者もそうだと思いますが、やはり在宅のほうが大変だと思います。
施設の場合だと周囲に職員がいますからね。悩んだら指示を仰ぐこともできます。何か問題が起こったら周囲に相談もできますし、周囲の対応を見て学ぶこともできます。間違った行動をしていれば、それを注意してくれる先輩もいます。スタッフの行動が「鏡」となり、自分の仕事を確かめることができるんですよね。
だけど、在宅の場合はそうじゃない。「鏡」がないんです。事業所を1歩出たら、その場に応じて自分で全てを判断して行動するしかありません。もちろん同行はありますが、それは最初のうちだけ。ある程度慣れてきたら、自分の責任で決めて動かなくてはいけません。
だから、「これでいいのか」、「他の人はどんな対応をしているんだろう」って気になっちゃって。1年目は特に悩みましたね。最近は経験も増えたので、そう悩まなくなりましたけれど。
―ひとりで迷ったり悩んだりしなきゃいけないわけですね。
井野さん:介護や支援というものには、「これが正しい答えだ」という明確なものがないと僕は思っています。利用者さんごとに、そして利用者さんの気分によってもその答えが正しいか間違っているかが違いますから。ひとりひとりと向き合って、ひとつずつ答え合わせをしながら進むより他にない気がします。どんな仕事でも、ひとつを極めていこうとすれば、何かしらの迷いはでてくるでしょう?きっと、それと同じですよね。
―転職してよかったと思いますか?
井野さん:もちろん、そう思います。