避難所には電動ベッドはありません
今、介護機器はどんどん便利になってきています。でも、今回の地震のような災害時には、ほとんどのものは使えません。たとえば電動ベッド。電気がなければ意味をなさないし、停電しないとしても、避難所に導入するのは無理があります。ともすれば、座位の場合は布団を重ねる、立つときには身体を上手に動かすポイントを教える、または支えるなどの工夫が必要です。日ごろから「座る、立つ、動く」といった基本動作の成り立ちをしっかり理解しておくことが求められるわけです。
弾性包帯やネットなどの医療用品や消毒液も同様で、物資が不足する被災時でこれらが手に入らない場合はまず、三角巾を活用するという基本的な物品で代用が可能です。
実は私自身、1995年の阪神・淡路大震災が起きるまで、「三角巾なんて必要ない、もう古い」と思っていました。ところがこれは、マフラーでも何でも手近にある布を切れば、すぐにつくれますし、雑誌を丸めて副木にしたものと組み合わせれば、ケガした腕を固定することだってできます。以来、授業でも三角巾の活用法を教えることにしています。
失われた生活の知恵にもう一度、立ち返ろう
実はこれ、介護に留まらない生活の知恵。それが、生活自体が便利になるなかで、どんどん失われてきたんですね。
例えばトイレです。水洗トイレが当たり前の今、ハエが病原菌を運ぶことを知らない人も多いかと思いますが、汲み取り式のトイレ時代では、ハエが排泄物にたかる光景は日常の1コマでした。当時は、土をかけるなどの対策が自然にとられていたようです。
また、消毒液が現在のように流通していなかった頃では、熱湯消毒や煮沸消毒で対応し、お湯を沸かすことができなければ日光消毒…。これらの知恵が被災地で感染症予防に役立つことはいうまでもありません。消毒するには消毒液が必要、と考えるのではなく、ばい菌を殺すために身の回りにあるものを工夫して活用する発想が求められているといってもよいでしょう。
食事もそうですね。いつでも出来合いの惣菜や弁当が手に入ると、材料から調達してつくる発想がなかなかわいてきませんし、水が使いたい放題にある環境では、少ない水を大切に活かす術もみえてきません。
逆に言えば、日ごろから意識して生活を見直すことが、災害時における介護に役立ち、そのままリスク管理へとつながるのです。
被災者の生活不活発病を予防する支援を考えたい
またこれは、被災者の生活不活発病を予防することにもなります。
実際、私は、今回の地震で被災した地域の避難所を歩いていて、段ボールの上に布団を敷いて一日中寝ていたり、たたんだ布団に寄りかかってぼーっとしている高齢者にたくさん出会いました。
彼ら自身、日常の介護場面で自ら動く術を教わらず、また、家族や介護者もそうした基本技術を知らないままでいるためでしょう。さらに、それまでは自分でやっていた掃除や炊事をする必要がなくなり、場合によってはボランティアの方が身のまわりの世話を全部してくれる。やることがないので寝たままの状態が続き褥瘡ができたり、心身の機能低下によってますます動けなくなったり…といった悪循環に陥ってしまうわけです。
さらに、避難所のトイレは若い人でも回数を減らしたくなるほど悲惨な衛生状態ですから、高齢者からすれば、非常に行きにくい。すると、水分摂取を減らすことで対処しようとするため、脱水症状を引き起こし、さらには
譫妄(せんもう)などへとつながっていくことは言うまでもありません。食糧不足による低栄養とあいまって、生活不活発病が進行する悪循環になるわけです。
日本は地震大国ですし、地震以外にも豪雨など、さまざまな災害がいつでも起こりうる。そのときに、高齢者ができるだけ今までの生活を続けるには、日ごろから常に基本的な介護技術を意識して活動することや、被災者支援のあり方を考えることが大切ですね。