利用者とのコミュニケーションは「聴くこと」「待つこと」から始まる
『コミュニケーション能力をいかに高めるか』は、私たち介護や看護に携わる者が常に現場で、研鑽を積んでおかなければならないテーマのひとつです。今回は、コミュニケーションについて2つの視点からお話したいと思います。1つ目は、『利用者や家族とのコミュニケーションについて』、2つ目は『多職種協働におけるコミュニケーションについて』です(図1⑦⑩参照)。
まずは前者から。介護職は、利用者や家族と一対一で向き合いながら、自立支援をしています。利用者が何を望んでいるのかを理解するために、また、利用者のできることや持っている力を引き出すために、一番大切なのは聴く力、傾聴する力です。聴くというのは、相手の言っていることを単に音として聞くのではなく、相手に意識を向けて相手の声を、言葉を、そして言葉にできない気持ちを聴きとること。それは、相手の反応を「待つこと」でもあると思います。
そうは言っても、実際の在宅の現場は、分単位で『あれもやって、これもやって…』と慌ただしく、「とても傾聴したり待っている時間なんてない」と言う方もいるでしょう。でも、どんなに忙しくても「私はあなたの話を(気持ちを)聴いていますよ」という姿勢があれば、利用者から何かしらのリアクション、働きかけがあるものです。そこから相手の可能性や能力を引き出していくことが、介護職の専門性ではないでしょうか。
そうした意味では、利用者に対してのコミュニケーション能力を高めることは、コーチング力を身につけることでもある、と言えるかもしれません。
なぜそうするのか、根拠を示せることも
介護職の専門性
次に『他職種とのコミュニケーション』。これもヘルパーやサ責の皆さんが、日ごろから苦労している点だと思います。それぞれの教育課程の違いから、互いに相手の職種の専門性を理解していないという、相互理解の不足が一番の問題です。特に介護職の側から見ると、看護職との連携が取りにくい…というのが本音ではないでしょうか。私自身もよく「看護職はすぐに白黒つけたがる」「記録にうるさい」「専門用語が多い」といった、介護職からの声を耳にします。
看護職として説明させていただくと、看護師はその養成課程でも現場に出てからも、5W1H(Why What Who Where When How)、「報告、連絡、相談、根拠」を徹底的に訓練されてきているので、「事実は何か」「根拠は何か」という情報からの分析を非常に大事します。しかし、一方介護職の場合は「なぜこうしたの?」とたずねると、往々にして「利用者がそうしてほしいといったから」といった答え方をしがちです。「なぜ」が説明できない、根拠を示すことが苦手なんです。これはぜひ改善したい点ですね。なぜなら、根拠がないと応用がきかないことにつながり、結局は画一的な介護になってしまう危険性があるからです。
記録にうるさいのも、根拠を示すためには記録が必要だから当然です。根拠の上に立った介護を行うことを、介護職はもっと学ぶ必要があると思います。
確かに、看護職が使う医療用語を知ることは大事ですが、それと同じ言葉を使う必要などありません。今は医師も患者にわかる言葉で説明することが求められる時代です。多職種連携の場においては、誰もがわかりやすい言葉で話をすることが大切です。看護職もそのあたりは反省する必要があると痛感しています。
また、看護職は生死に関わる状況で瞬時に判断する訓練を受けてきているため、何でも白黒つけようとする傾向があるのも事実です。しかし、介護の現場では「しばらく様子をみてみよう」というケースも多いですよね。そんな時、看護職は「しばらくっていつまで?」とたたみかける気質がありますが、介護職は利用者本人や家族の生活、人生と歩みを共にしていることで、「待つ」ことの大切さを知っている強みがあります。
介護の現場では、瞬時の判断が必要なこともあれば、そうでないこともあります。介護職の人には「これまで、これこれこういう経過で来たので、しばらくは見守りをしていけば大丈夫だと思います」と自信を持って意見を言ってほしいと思います。多職種協働の場で、誰が上で誰が下なんて意識があるようじゃダメです。分からないことがあれば、何でも聞けばいいんです。聞くことができない人は「そんなことも知らないの?」と一言言われた経験があるかもしれませんが、それが嫌で聞けない人は、多職種協働によるチームケアには向かない、ということになってしまいます。
多職種コミュニケーションにはカンファレンスの積み重ねが必要
互いに専門性も教育課程も異なる職種であっても、今はICF(国際生活機能分類)という“共通言語”(図2)があります。大切なのは、共通の考え方に基づいたケアの方向性が共有されていることです。
今、在宅でも施設でも医療ニーズを併せ持つ要介護者がどんどん増えています。その人に関わる職種、特に介護職と看護職が互いの専門性を発揮しながら連携していく必要があります。
多職種によるコミュニケーションはカンファレンスの積み重ねの中で培われていくものです。そのためにはケアマネジャーに、本来の公正・中立の立場でもっとがんばってもらいたいし、サ責にも自らカンファレンスをリードしていってほしいと思います。