1960年代、私は学校と病院が一緒になっている施設にいた。そこで出る3食の食事がとてもまずかったことを覚えている。例えば、豚汁には肉の脂ばかりが入っていた。看護師さんに食べさせてもらい、口にほおばった途端に吐き気がして出してしまった。恐ろしい性格の看護師さんの場合は、往復ビンタをくらった。涙を流しながら丸ごと飲み込んだものである。おやつは、せんべい2枚とあめ1個くらいであった。1枚のガムを見つけると、ものさしで計って、部屋にいる6人の友だちと分けて食べた。そういう経験のなかから、大人になっても私は一人だけで美味しいものを食べられない性格になってしまった。美味しいおかずができると、どうしてもヘルパーさんにごちそうしたくなる。でも、ヘルパーさんにごちそうしてはならないという規則もある。今は亡き母は、「味見をしてください」と言ってごちそうしていた。今も私はその言葉を受けついで使っている。
私はケーキがとても高価な食べ物だと思っている。一度でいいから一個だけケーキを買ってきて、一人で食べたいというケチなことを考えていた。でもやっぱり美味しいものは、食事の介助をしてくれる人と一緒に食べたい。だからいつも細長く分けやすいケーキを買ってしまう。この原稿を書くために、初めてケーキを一個買ってみた。まぁまぁ美味しかったけれど、手を動かす人は美味しくないので、私もあまりいい気持ちではない。ケアを受けるということは、こういう感情があるのだ。あるヘルパーさんは、障がいを持つ人にケーキを食べさせてあげたとき、「甘すぎてくどいね」と言われ、「そんなこと知らないよ」と答えたそうだ。そのヘルパーさんは「私、どうしてあんなこと言ったんだろうね。おなかが空いていたのかもしれないね。いつも後悔しているの」と言っていた。ヘルパーさんの心に傷がついたのだろう。こういうことは日常茶飯事ある。やはり「美味しいね」と二人で食べられるほうがよいと思う。