大野梅子さん(84歳・仮名・女性)は認知症で、長女(58歳)と二人暮らし。長女は会社員のため、日中は独居となり、見守りや介助が必要です。週3回はデイサービス、週2回は訪問介護サービスで昼食・夕食の調理と配下膳の生活援助を受けています。土・日は長女が家事を行います。
訪問介護で調理中、大野さんはテレビを見ているか、居眠りをしていることが多いです。なるべく話しかけをして、今までの生活が継続できるようにしています。かつて主婦として母親として家事全般をしていたこと、家族旅行のことなど話題も様々です。生き生きと話が弾み、ユーモアも出てきます。
洗濯物は取り込んでおくだけですが、今までの生活の延長線でできるのではないかと判断し、「洗濯物をたたんでいただけませんか」と声かけすると、「えっ」と戸惑ったご様子でした。そこで、私が目の前でたたむと、自然と手が伸び、タオルをたたんでくれたのです。「ありがとう、助かったわ」「あら、いやだわ、このくらいのことで」と笑顔も。次回からは、洗濯物を取り込み、1~2枚は一緒にたたんでから調理に取りかかるようにしました。
大野さんは、洗濯物を目の前に置いておくだけではたたみません。少しでも一緒に行うと、そのまま続けられるのです。またある時、食べこぼしやお菓子の食べ屑が床に落ちていたので、掃除機をかけたところ、大野さんは簡易掃除機を出してきて掃除をして拭き掃除もされました。その部屋だけでなく玄関や他の部屋の掃除も同様に。
訪問介護サービスには含まれませんが、大野さんとの会話から、できそうなことを見つけ、一緒に行うことで、行動できることも増えてきました。声かけだけでなく一緒に行動すると、大野さんは理解し、それまでの経験をもとに行動に移すことができるようです。決められたサービスだけでなく、試みることで生活の活性化につながるのだと実感しました。
現状のサービスでは、決められた時間内に決められたサービスを実行するのが精一杯です。しかし、利用者の持っている能力を引き出し・活用することで、今までの生活を少しでもできるようにし、そのことを踏まえ、実際に実践していると、生活援助と身体介護を線引きする必要はあるのか? と疑問に感じることも多いです。調理や掃除をすることが目的ではなく、利用者主体の生活ができるように観察し、工夫しながら、それまでの生活が継続できるように意識しながら援助するのが、実際のサービスと言えるのかもしれません。